著しく短い工期の禁止|建設業法19条の5と工期に関する基準を解説 2026年版

「この工期では週休2日どころか、休みが1日も取れない」。建設業の許可に関するご相談をお受けしていると、書類の話が終わったあとで、必ずと言っていいほどこの話題になります。無理な工期を求められても、取引を切られるのが怖くて断れない。長年そうやって回してきた、という声も少なくありません。

ですが、断るための法律上の根拠は、すでに用意されています。この記事では、建設業法第19条の5の「著しく短い工期の禁止」を軸に、何が禁止されているのか、何をもって「著しく短い」と判断されるのか、そして契約の前に何を残しておけばよいのかを、順にご説明します。

著しく短い工期の禁止とは

建設業法は、通常必要と認められる期間に比べて著しく短い工期での契約を、正面から禁止しています。条文は次のとおりです。

(著しく短い工期の禁止)第19条の5

1 注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

2 建設業者は、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

建設業法 第19条の5第1項・第2項(著しく短い工期の禁止)

ここで注目していただきたいのは第2項です。令和7年12月12日に施行された改正建設業法により、著しく短い工期での契約締結は、受注者である建設業者の側にも禁止されました。それまでこの規定は、注文者(発注者・元請)だけを名宛人にしていました。

「短い工期を押しつけた側」だけでなく「受け入れた側」も違反になる、という構造の転換だと理解してください。無理な工期を承知で受けることが、自社にとってもリスクになったということです。同じ改正では、不当に低い請負代金の禁止(第19条の3)も同じように受注者側へ広げられ、見積書に書くべき事項も条文に明記されました。

なお、この規定は最初に締結する契約だけでなく、工期を変更する契約変更のときにも同じように働きます。追加工事が入ったのに工期が動かない、という形での実質的な工期の圧縮も、この条文の射程です。

「著しく短い」はどう判断されるのか

条文には「通常必要と認められる期間」としか書かれていません。では何が基準になるのか。答えは「工期に関する基準」です。

これは建設業法第34条に基づいて中央建設業審議会が作成し、実施を勧告している基準で、令和2年7月20日に作られ、令和6年3月27日に最終改定されています。建設業に時間外労働の上限規制が適用されたことを踏まえた改定です。

基準そのものに「何日以上」という数字はありません。代わりに、工期を見積もるときに考慮すべき事項が具体的に列挙されており、それらが考慮されているかどうかが判断の材料になります。主なものを整理します。

区分考慮すべき事項の例
自然要因降雨日・降雪日(雨休率の設定)、猛暑日の不稼働、河川の出水期における作業制限、寒冷・多雪地域の冬期休止期間
休日・労働時間週休2日(4週8休)の確保、法定労働時間は1日8時間・1週40時間であること、書類作成の時間や営業所と現場の間の移動時間も労働時間に含まれ得ること
イベント年末年始・夏季休暇・大型連休、地元の催事、交通規制が行われる時期、農業用水の落水時期、魚類の産卵期、生息動植物への配慮
制約条件鉄道近接・航空制限、車両の山積制限や搬出入時間の制限、道路の荷重制限、通学路における搬入出時間の制限、周辺への振動・騒音・粉じんに配慮した作業時間の制限
その他契約方式、関係者との調整、行政への申請にかかる期間、労働安全衛生、工期変更

実務で効くのは、たとえば降雨日の扱いです。国土交通省が発注する土木工事では、施工に必要な実日数に雨休率を乗じた日数を降雨日として設定し、地域ごとの数値のほか0.7を用いることもできるとされています。猛暑日についても、暑さ指数が31以上となる時間を集計して1日8時間として日数換算し、作業不能日に算入する扱いが示されています。

つまり「雨が降る日と暑くて働けない日を工程に織り込んでいない工期」は、基準に照らして説明が苦しくなるということです。見積りの段階でこれらを日数として明示しておくことが、そのまま防御になります。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

違反したときは勧告と公表

著しく短い工期での契約が締結されたと判断された場合、許可行政庁は発注者に勧告を行うことができ、勧告に従わないときは公表することができます。

(発注者に対する勧告等)第19条の6

(中略)

2 建設業者と請負契約(請負代金の額が政令で定める金額以上であるものに限る。)を締結した発注者が前条第一項の規定に違反した場合において、特に必要があると認めるときは、当該建設業者の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事は、当該発注者に対して必要な勧告をすることができる。

3 国土交通大臣又は都道府県知事は、前項の勧告を受けた発注者がその勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

建設業法 第19条の6第2項・第3項(発注者に対する勧告と公表)

勧告に従わなければ、発注者の名前が公表されます。取引先や金融機関の目に触れる形で残るという意味で、実務上の重みは小さくありません。

勧告の対象となる契約には金額の下限があり、政令で次のように定められています。

(著しく短い工期の禁止に係る勧告の対象となる請負契約の請負代金の額の下限)第5条の8

法第十九条の六第二項の政令で定める金額は、五百万円とする。ただし、当該請負契約に係る建設工事が建築一式工事である場合においては、千五百万円とする。

建設業法施行令 第5条の8(勧告の対象となる請負代金の額の下限)

注意していただきたいのは、この500万円は「勧告できる契約の下限」であって、「500万円未満なら短い工期でよい」という意味ではないことです。禁止そのものに金額の限定はありません。また、独占禁止法上の事業者に当たる発注者は、この勧告の仕組みとは別に、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法の枠組みで扱われます。

疑わしいときの相談窓口

締結した請負契約が著しく短い工期に当たるのではないかと思われる場合、各地方整備局等に設置されている「駆け込みホットライン」に相談することができます。工期に関する基準は、発注者・受注者・元請・下請を問わず相談してよいと明記しています。

下請の立場で元請に言い出しにくい、という場面でも使える窓口です。相談の際には、見積書、工程表、やり取りの記録が判断材料になります。次の項で述べるとおり、書面を残しておくことが結局は自社を守ります。

適正な工期を確保するための実務の流れ

契約の前後で何をしておけばよいかを、実際の順序で整理します。

  1. ステップ1 工事内容の具体的な提示を受ける
    注文者は、随意契約なら契約締結までに、入札なら入札までに、工事内容などをできる限り具体的に提示しなければなりません。図面や仕様が固まらないまま日付だけ決まる状態は、この段階で解消しておきます。
  2. ステップ2 見積期間を確保する
    予定価格に応じて、500万円未満は1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上の見積期間を置くことが政令で義務づけられています。詳しくは建設工事の見積期間とは?10日・15日のルールと違反の扱いを解説をご覧ください。
  3. ステップ3 工程表を添えて工期を見積もる
    降雨日・猛暑日・休日・地域の催事・搬入制限などを日数として工程表に落とし込みます。工程ごとの作業日数と準備日数を書いた見積書は、法律上も作成の努力義務があります。
  4. ステップ4 工期の根拠を書面で説明する
    「なぜこの日数が必要か」を口頭ではなく書面で伝えます。断る場面でも、根拠を示した書面があるかどうかで話の通り方がまるで違います。
  5. ステップ5 契約書に工期と変更の取扱いを明記する
    工期、工事内容の変更や工期の変更が生じた場合の取扱い、遅延の場合の損害の負担などは、建設業法が契約書の記載事項として求めています。書式は建設工事請負契約書の作り方|建設業法19条の記載事項を解説で解説しています。
  6. ステップ6 着工後の事象は速やかに協議を申し出る
    資材の供給の著しい減少や価格の高騰など、工期や請負代金に影響する事象は、契約前に通知しておくことで、発生後に工期や代金の変更協議を申し出ることができます。申出を受けた注文者には、誠実に協議に応じる努力義務があります。
  7. ステップ7 記録を保存する
    見積書、工程表、協議の記録、変更契約書を一式で保存します。後日、工期の妥当性が問題になったとき、これらがそのまま証拠になります。

よくある失敗

  • 工期の根拠を口頭でしか伝えていない…「無理だと言った」という主張は記録がなければ残りません。工程表を添えた書面で伝えるのが基本です。
  • 追加工事を受けたのに工期を延ばしていない…工事内容が増えれば必要な期間も増えます。契約変更のときこそ、この条文が働きます。
  • 雨と暑さを工程に入れていない…降雨日と猛暑日は基準が明示的に挙げている考慮事項です。入れずに組んだ工期は、後から説明が立ちません。
  • 下請に対して自分が同じことをしている…元請から受けた工期の圧縮を、そのまま下請へ流していないか。第19条の5は元請と下請の間にも当てはまります。
  • 工期だけを議論して代金を動かさない…災害復旧などで早期完了が必要な場合、それに伴う資材費・労務費は請負代金に反映しなければならないと基準は述べています。工期とコストは切り離せません。
  • 支払条件を確認しないまま短工期を受ける…工期が短いほど資金繰りへの影響は大きくなります。下請代金の支払期日|50日以内のルールと遅延利息を解説もあわせてご確認ください。

「著しく短い」に当たるかどうかは、工事の内容・工法・人員・資材・同種工事の実績などを総合的に勘案した個別具体的な判断になります。数値で一律に線が引かれているわけではなく、行政の運用も積み上がっている途中です。個別の案件については、許可行政庁や駆け込みホットラインへの確認をおすすめします。

当事務所にご相談いただく場合

当事務所では、建設業許可の取得・更新に加えて、請負契約書や見積書の書式づくり、工期と代金の変更協議に用いる書面の整備までお受けしています。「断りたいが、どう書けばよいか分からない」という段階でのご相談が、いちばん効果が出ます。

初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでご相談いただけます。費用はご依頼の範囲によって変わりますので、正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示します(ご安心ください)。なお、個別の紛争の代理交渉や訴訟の代理は弁護士の業務となりますので、必要な場合は連携してご対応します。

まとめ

著しく短い工期の禁止は、令和7年12月12日の施行で、注文者だけでなく建設業者の側にも適用される規定になりました。判断の物差しになるのは、令和6年3月27日に最終改定された「工期に関する基準」で、降雨日・猛暑日・週休2日・地域の催事・搬入制限といった考慮事項が具体的に示されています。違反すれば発注者は勧告を受け、従わなければ公表されます。守りの要は、契約前に工期の根拠を書面で残しておくこと。この一手間が、無理な工期を断るときの最大の武器になります。

建設業許可の全体像は、建設業許可のすべて(総合ガイド)でまとめて解説しています。

出典