法人成りのタイミングとは?個人事業主が法人化する目安と手続き 2026年版

「利益が800万円を超えたら法人にしたほうがよい、と聞いたのですが本当でしょうか」。

個人で事業をされている方から、たいへんよくいただくご質問です。結論から申し上げますと、その数字は判断材料のひとつにすぎません。税金だけを見て法人成りを決めてしまうと、社会保険料の負担や許認可の取り直しで、かえって手取りが減ることがあります。

この記事では、法人成りを決める前に確認していただきたい4つの判断軸と、見落とされがちなデメリット、そして実際の手順をご説明します。

結論|法人成りは4つの軸で判断します

法人成りを検討するときに見るべきなのは、次の4点です。

  1. 税金……所得税の累進税率と法人税率のどちらが有利か
  2. 消費税……インボイス登録の有無によって、免税の話が成り立つかどうかが変わる
  3. 信用と取引……取引先や金融機関が法人格を求めているか
  4. 許認可……法人成りによって許可を取り直すことになるか

このうち3と4は、金額では測れません。所得800万円という目安は税金だけを見た数字であり、社会保険料の増加や許認可の取り直しまで含めると、答えは事業ごとに変わります。

法人成りとは何か

法人成りとは、個人事業として営んでいた事業を、新しく設立した会社に引き継ぐことをいいます。個人事業を廃止し、会社を設立し、資産・負債・契約・従業員をその会社に移す、という一連の流れです。

ここで押さえていただきたいのは、個人と法人は法律上まったく別の人格であるという点です。同じ人が同じ場所で同じ仕事を続けていても、法律上は事業の主体が入れ替わります。この当たり前の事実が、後ほどご説明する許認可の問題を生みます。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

判断軸1|税金は税率の構造が違います

所得税は、所得が大きいほど税率が上がる累進課税です。

課税される所得金額税率控除額
1,000円から194万9,000円まで5パーセント0円
195万円から329万9,000円まで10パーセント9万7,500円
330万円から694万9,000円まで20パーセント42万7,500円
695万円から899万9,000円まで23パーセント63万6,000円
900万円から1,799万9,000円まで33パーセント153万6,000円
1,800万円から3,999万9,000円まで40パーセント279万6,000円
4,000万円以上45パーセント479万6,000円

これに住民税と復興特別所得税が加わります。

一方、法人税は税率が一定です。資本金1億円以下の普通法人の場合、年800万円以下の部分が15パーセント(令和7年4月1日以後に開始する事業年度で所得が年10億円を超える場合は17パーセント)、年800万円を超える部分が23.2パーセントとされています。

所得税の税率が法人税率を上回りはじめる水準がおよそ800万円前後であるため、「800万円が目安」と言われるわけです。ただし、法人にすると役員報酬を経費にできる、退職金の制度を設けられる、赤字を10年間繰り越せるといった別の効果も生まれますので、単純な税率比較だけで結論は出ません。具体的な税額の試算は税理士の専門分野のため、当事務所では提携する税理士と連携してご案内します。まずは当事務所にご相談ください。

判断軸2|消費税は「2年間免税」が前提を失っています

かつて、法人成りの最大の動機は消費税でした。個人事業とは別人格の法人を作れば、基準期間がないため最大2年間は消費税を納めなくてよい、という考え方です。この根拠となる条文は次のとおりです。

(小規模事業者に係る納税義務の免除)第9条

事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

消費税法 第9条第1項(小規模事業者の納税義務の免除)

お気づきでしょうか。条文には「(適格請求書発行事業者を除く。)」という括弧書きがあります。つまり、インボイス(適格請求書)を発行するために登録をした事業者は、売上が1,000万円以下でも免税事業者にはなれません。取引先がインボイスを求める業種であれば、法人成りしても消費税の免除は受けられないということです。

さらに、資本金の額によっても結論が変わります。

(新設法人の納税義務の免除の特例)第12条の2

その事業年度の基準期間がない法人(中略)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人(以下この項及び次項において「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(中略)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、第九条第一項本文の規定は、適用しない。

消費税法 第12条の2第1項(新設法人の納税義務の免除の特例)

資本金を1,000万円以上にすると、設立初年度から消費税の納税義務が生じます。資本金の決め方は会社の資本金はいくらにすべきかで詳しく解説しています。

2割特例は令和8年9月30日までの課税期間が最後です

インボイス制度の開始にあわせて設けられた、納付税額を売上税額の2割にできる負担軽減措置(いわゆる2割特例)は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が適用の範囲です。個人事業者であれば、令和8年分の申告が最後の適用となります。

この時期に法人成りを検討される方は、個人としての最後の申告と、法人としての最初の申告の両方を見据えて時期を決める必要があります。なお、令和8年度税制改正によるインボイス関連の経過措置の細目は、国税庁の最新の案内で定められています。

判断軸3|信用と取引先の要件

税金とは別に、事業を伸ばすうえで法人格が必要になる場面があります。

  • 取引先の与信基準……大手企業や官公庁のなかには、法人としか取引しない、あるいは法人を優先するところがあります。建設業の元請から法人化を求められる例は珍しくありません。
  • 金融機関からの借入れ……法人のほうが決算書の信頼性が高いとみなされ、融資枠が広がる傾向があります。
  • 人の採用……社会保険が整っていることは、求職者にとって大きな判断材料です。
  • 事業の承継……個人事業は本人が亡くなれば終わりますが、法人は株式を通じて引き継げます。

会社の種類をどうするか(株式会社か合同会社か)は、この信用の観点と費用の兼ね合いで決まります。株式会社と合同会社の違いで比較していますので、あわせてご覧ください。

判断軸4|許認可は原則として取り直しになります

ここが、当事務所にご相談いただく方に最も強くお伝えしている点です。

許認可は個人に与えられたものであり、法人成りをしても自動的には引き継がれません。原則として、新しい法人で改めて取り直すことになります。

建設業許可であれば、個人事業主が持っていた許可を法人が使うことはできず、法人としての新規申請が必要です(令和2年10月施行の改正で、事前に認可を受けて空白なく承継する道が開かれていますが、期限と要件があります)。旅館業、宅地建物取引業、産業廃棄物収集運搬業なども同じ考え方です。

詳しくは個人事業主で建設業許可は取れるか、事業譲渡で許認可は引き継げるかをご覧ください。許認可が必要な事業では、設立と許可取得を同時に設計することが欠かせません。この考え方は許認可が必要な事業の会社設立にまとめています。

見落とされがちなデメリット

社会保険は人数にかかわらず強制加入です

(適用事業所)第6条

次の各号のいずれかに該当する事業所若しくは事務所(以下単に「事業所」という。)又は船舶を適用事業所とする。

(中略)

二 前号に掲げるもののほか、国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの

厚生年金保険法 第6条第1項第二号(法人の事業所に係る適用事業所)

個人事業では、業種と人数によって社会保険の加入義務が決まります。しかし法人は、役員1人だけの会社であっても、報酬を支払っていれば強制適用です。健康保険・厚生年金の保険料は、会社と本人が折半します。会社負担分は経費になりますが、キャッシュの流出としては確実に増えます。法人成りで税金が減っても、社会保険料でそれ以上に持ち出しが増えるケースは実際にあります。

赤字でも税金がかかります

法人住民税の均等割は所得がなくても課税され、東京都23区内で資本金等の額が1,000万円以下・従業者数50人以下の法人であれば年額7万円です。個人事業には、この赤字でもかかる固定的な負担はありません。

事務の手間と維持費が増えます

法人は決算書の作成基準が厳格になり、税務申告も個人よりはるかに複雑です。税理士に依頼する費用、役員変更登記などの登記費用、社会保険の手続きが継続的に発生します。設立後にやるべきことの全体像は会社設立後にやること一覧でご確認ください。

法人成りの進め方

  1. ステップ1 試算と方針を固める
    直近の所得、消費税の課税状況、取引先の要望、許認可の有無を洗い出します。税負担の試算は提携する税理士と連携してご案内し、許認可の手続きは当事務所への一括したご依頼でお任せいただけます。まずはご相談ください。
  2. ステップ2 会社の基本事項を決める
    会社の種類、商号、本店、事業目的、資本金、決算期、役員構成を決めます。決算期の考え方は会社の決算期の決め方をご覧ください。
  3. ステップ3 事業目的に許認可の文言を入れる
    後から目的を追加すると、定款変更と登記の費用が別途かかります。将来行う可能性のある事業まで含めて、この段階で設計します。
  4. ステップ4 定款を作成し、設立登記をする
    株式会社は公証役場での定款認証が必要です。登記申請の代理は司法書士の業務ですので、連携して進めます。手順は会社設立の流れにまとめています。
  5. ステップ5 許認可を取り直す
    建設業許可などが必要な事業は、法人での申請を進めます。許可が下りるまで営業できない期間が生じないよう、個人事業の廃止時期と調整します。
  6. ステップ6 資産・契約・従業員を引き継ぐ
    事業用資産の譲渡、賃貸借契約や取引基本契約の名義変更、従業員の再雇用手続きを行います。契約書の巻き直しは漏れやすいところです。
  7. ステップ7 各種届出をする
    法人設立届、青色申告の承認申請、社会保険の新規適用、労働保険の手続きを進めます。個人事業側の廃業に伴う届出も忘れずに行います。
  8. ステップ8 取引先へ通知する
    請求書の名義、振込先口座、インボイスの登録番号が変わります。切替日を明示して案内し、混乱を防ぎます。

よくある失敗

  • 許可の取り直しを考えずに個人事業を廃止する……法人の許可が下りるまで営業できない空白期間が生まれます。建設業では特に重大です。
  • 事業目的を絞りすぎる……許認可の要件を満たす文言が入っていないと、設立後すぐに定款変更が必要になります。
  • 資本金を1,000万円以上にしてしまう……消費税の免税の余地が初年度からなくなります。許認可の財産要件で必要な場合を除き、慎重にお決めください。
  • 社会保険料を試算していない……役員報酬の額をどう設定するかで、会社と本人の負担は大きく変わります。
  • 取引先への通知が遅れる……請求書の宛名や振込先が変わることを伝え忘れると、入金遅れの原因になります。

費用と期間の目安

設立の実費は、株式会社であれば定款認証の手数料と登録免許税を含めておおむね20万円台、合同会社であれば登録免許税6万円を中心に10万円前後が目安です。これに許認可の申請手数料が加わります。

期間は、会社の基本事項が固まってから設立登記の完了まで2週間から3週間程度です。許認可を伴う場合は、そこから許可が下りるまでさらに1か月から3か月程度をみておくと安全です。当事務所にご依頼いただく場合の報酬は、許認可の有無と会社の形態によって変わります。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。

当事務所では、定款・議事録・契約書などの書面作成と許認可の申請を担当し、必要に応じて税理士、司法書士、社会保険労務士等の各専門家と連携しておりますので、各専門家を見つけていただかなくとも法人設立が可能です。

まとめ

法人成りは、税金の計算だけで決めるものではありません。消費税はインボイス登録の有無で結論が変わり、許認可は原則として取り直しになり、社会保険は人数にかかわらず強制加入になります。この3点を織り込んだうえで、取引先や金融機関が法人格を求めているかどうかを重ねて考えると、判断はぐっと明確になります。

迷われたときは、「今の事業を10年続けるとしたら、どちらの形が動きやすいか」という視点でお考えいただくのが実務的です。

会社設立・法人化の全体像は、会社設立の総合ガイドでまとめて解説しています。

当事務所では、法人成りの可否のご相談から、事業目的の設計、定款の作成、許認可の取り直しまでを一貫してお手伝いしています。初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)のほか、オンラインでのご相談にも対応しています。

出典