相続放棄と遺品整理|片付けてよいもの・単純承認になる行為 2026年版

「亡くなった父に借金があるらしく、相続放棄を考えている。でもアパートの大家さんから、早く部屋を片付けてほしいと言われている」。相続のご相談で、とても多い場面です。ここで急いで遺品を処分してしまうと、相続を認めたもの(単純承認)とみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります。この記事では、相続放棄を考えている方が遺品整理でしてよいこと・避けたいことを、条文に沿って整理します。

結論|放棄を考えているなら、財産を「処分」しない。迷うものは手を付けない

  • 処分は単純承認:相続財産を売る・捨てる・使うなどの処分をすると、相続を承認したものとみなされ、借金も含めてすべて引き継ぐことになります(民法第921条)。
  • 保存行為は別:腐るものを捨てる、戸締まりをするなど、財産の価値を保つための行為は処分に当たりません。
  • 期限:相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
  • 放棄の後:放棄した時に手元で管理している財産は、次の相続人などに引き渡すまで保存する義務があります(民法第940条)。

遺品の処分が「単純承認」になる理由

相続人には、すべて引き継ぐ(単純承認)、プラスの範囲でだけ引き継ぐ(限定承認)、いっさい引き継がない(相続放棄)の3つの選択肢があります。ただし、一定の行為をすると、本人の意思にかかわらず単純承認をしたものとみなされます。これを法定単純承認といいます。

(法定単純承認)第921条

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

民法 第921条第一号〜第三号(法定単純承認)

遺品整理で問題になるのは、主に第一号の「処分」です。家財を売る、車を名義変更して使う、預金を引き出して自分のために使うといった行為が典型です。さらに第三号により、相続放棄が受理された後でも、財産を隠したり使ったりすれば単純承認とみなされます。放棄が済んだからといって、遺品を自由にしてよいわけではありません。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

場面別|してよいこと・避けたいこと

実際の線引きは、個別の事情で判断が分かれます。ここでは、ご相談の多い場面ごとに考え方の目安を示します。

場面考え方の目安
生ごみ・傷んだ食品の処分財産の価値を保つための保存行為にあたり、問題になりにくい
写真・手紙・位牌など経済的な価値がほとんどないものを引き取ることは、処分に当たらないとされることが多い
形見分け古い衣類など価値の乏しいものは問題になりにくい。貴金属・時計・着物・美術品など値の付くものは避ける
家財一式の処分・売却処分に当たるおそれが大きい。リサイクル店への売却は特に避ける
車・バイク売却・廃車・名義変更は処分に当たるおそれ。保管にとどめる
預貯金の引き出し自分のために使えば処分。引き出しただけで手を付けず保管していれば直ちに処分とはいえないが、避けるのが安全

形見分けの考え方

形見分けについては、経済的な価値が乏しいものを分ける程度であれば、処分には当たらないとした裁判例があります。一方で、遺品のほとんどを持ち帰った事案で、財産を隠したものと判断された例もあります。「売れば値が付くかどうか」をひとつの目安にして、迷うものには手を付けないのが安全です。

葬儀費用の支払い

亡くなった方の預金から葬儀費用を支払うことは、社会的にみて相当な範囲の金額であれば処分に当たらないとした裁判例があります。ただし、金額や内容によっては判断が変わりえます。支払う場合は領収書をすべて残し、できれば相続人ご自身の財産から支出しておくと安心です。

受け取ってよいお金

受取人が指定された死亡保険金、遺族年金、未支給年金、香典などは、相続財産ではなく受け取る方ご自身の権利とされるため、受け取っても単純承認にはなりません。保険金の扱いは生命保険金は相続財産?で解説しています。

賃貸住宅の片付けと大家さんへの対応

いちばん悩ましいのが、亡くなった方が賃貸住宅に住んでいた場合です。大家さんや管理会社は早い明渡しを望みますが、相続放棄を考えている方が次のことをすると、処分に当たるおそれがあります。

  • 賃貸借契約を解約する:借りる権利も相続財産です。相続人として解約の合意をすると、処分とみられるおそれがあります。
  • 敷金を受け取る:敷金の返還を受ける権利も相続財産です。
  • 家財をまとめて処分する:価値のあるものが含まれていれば、処分に当たります。

この場合は、相続放棄の手続きを進めていることを大家さんに正直に伝え、鍵の管理と腐るものの片付けにとどめるのが基本です。なお、ご自身が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合、その責任は相続とは別のものなので、放棄をしても家賃や原状回復の支払いは残ります。保証人として対応するのか、相続人として対応するのかを分けて考えましょう。

相続放棄をした後の保存義務|令和5年4月の改正

「放棄したのだから、あとは一切関係ない」とはいえない場合があります。

(相続の放棄をした者による管理)第940条

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

民法 第940条第1項(相続の放棄をした者による管理)

令和5年4月1日施行の改正で、保存義務を負うのは「放棄の時に現に占有している」財産に限ることがはっきりしました。たとえば、亡くなった親と同居していた家や、手元で預かっている通帳・貴重品がこれにあたります。反対に、遠方にあって一度も管理したことのない空き家については、放棄をした方がこの義務を負うことはありません。

保存義務は、次の順位の相続人か、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人に引き渡すまで続きます。相続人が全員放棄した場合は、清算人の選任を申し立てる必要が出てくることもあります。

相続放棄までの進め方

  1. ステップ1 遺品は「触らず記録する」
    部屋の様子を写真に残し、郵便物・通帳・契約書類を集めます。腐るものの片付けと戸締まりにとどめましょう。
  2. ステップ2 財産と借金の調査
    預貯金・不動産・借入れ・保証債務を調べます。調べ方は相続財産の調査方法をご覧ください。
  3. ステップ3 放棄するかどうかの判断
    3か月で調べきれないときは、期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てることができます。
  4. ステップ4 家庭裁判所への申述
    亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に、申述書と戸籍などを提出します。
  5. ステップ5 財産の引渡し
    受理された後、手元で管理している財産を、次の順位の相続人や相続財産清算人に引き渡します。

相続放棄の手続きそのものは、相続放棄の手続きと3か月の期限で詳しく解説しています。

費用・期間の目安

  • 申述の費用:申述人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なります)。
  • 戸籍などの取得:1通450円〜750円。亡くなった方との関係によって必要な通数が変わります。
  • 期間:申述から受理まで、3か月の期限とは別に、おおむね2週間〜1か月程度かかります。
  • 行政書士報酬:戸籍の収集や財産の調査など、ご依頼の範囲によって変わります(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)。

よくある失敗3つ

①遺品整理業者に一括で頼んでしまう。買取りと処分をまとめて行う契約は、処分に当たるおそれが大きい行為です。放棄を考えている間は、契約を待ちましょう。

②亡くなった方の預金から借金や滞納家賃を支払う。善意でしたことでも、相続財産を使った支払いは処分とみられるおそれがあります。請求が来ても、まず「相続放棄を検討中です」と伝えて支払いを待ってもらうのが基本です。

③車を乗り続ける・名義を変える。車も相続財産です。使い続けたり、売却や廃車の手続きをしたりせず、保管にとどめましょう。

まとめ

相続放棄を考えているなら、遺品は「処分しない・使わない・隠さない」が原則です。腐るものの片付けや戸締まりなどの保存行為、価値の乏しい思い出の品の引き取りは問題になりにくい一方、家財の売却や賃貸借の解約は避けましょう。放棄の後も、手元にある財産は引き渡すまで保存する義務があります。線引きに迷う場面が多い手続きですので、片付けに手を付ける前の段階でのご相談をおすすめします。

相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。

行政書士・藤原友事務所(世田谷区大原)では、これまで400件を超える相続のご相談をお受けしてきました。戸籍の収集や財産・借金の調査は当事務所で承り、家庭裁判所へ提出する申述書の作成は、司法書士・弁護士と連携してご案内します。無料相談はお電話(03-4500-1030)で承り、オンラインでのご相談にも対応しています。

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