相続した空き家の管理責任|特定空家の指定と固定資産税 2026年版
「実家を相続したけれど、住む予定はない」。相続のご相談で、とても多いお悩みです。空き家を放置すると、区(市町村)から指導を受け、土地の固定資産税の軽減が外れることもあります。この記事では、空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家法」)のしくみから、相続人の管理責任、手放すときの出口までを整理します。
結論|相続した空き家は「放置しない」「方針を早く決める」が基本です
- 管理の責任:空き家の所有者等には適切に管理する努力義務があり、相続でこの立場は相続人に移ります。
- 段階的な措置:管理が不十分だと「管理不全空家等」として指導・勧告を、さらに悪化すると「特定空家等」として命令や行政代執行まで受けることがあります。
- 税への影響:勧告を受けると、固定資産税・都市計画税の住宅用地特例が外れます。
- 出口:売却・賃貸・解体などの方針を、遺産分割とあわせて早めに決めましょう。
空家等対策の推進に関する特別措置法のしくみ

空家法の「空家等」とは、居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物とその敷地です(第2条第1項)。所有者等の責務は次のとおりです。
(空家等の所有者等の責務)第5条
空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努めなければならない。
空家等対策の推進に関する特別措置法 第5条(所有者等の責務)
努力義務なので、この条文違反そのものに罰則はありません。ただし管理の状態が悪くなると、指導や勧告の対象になります。
2023年12月施行の改正で新設された「管理不全空家等」
令和5年12月13日施行の改正で、特定空家等になる前の段階として「管理不全空家等」が設けられました。
(適切な管理が行われていない空家等の所有者等に対する措置)第13条
市町村長は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、当該状態にあると認められる空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対し、基本指針(第六条第二項第三号に掲げる事項に係る部分に限る。)に即し、当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置をとるよう指導をすることができる。
2 市町村長は、前項の規定による指導をした場合において、なお当該管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときは、当該指導をした者に対し、修繕、立木竹の伐採その他の当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な具体的な措置について勧告することができる。
空家等対策の推進に関する特別措置法 第13条第1項・第2項(管理不全空家等に対する指導・勧告)
| 区分 | 状態 | とられる措置 |
|---|---|---|
| 管理不全空家等 | 放置すれば特定空家等になるおそれがある | 指導、勧告 |
| 特定空家等 | 倒壊など保安上の危険、衛生上の有害、著しい景観の悪化などのおそれがある | 助言・指導、勧告、命令、行政代執行 |
判断は、国土交通省のガイドラインを参考に各区(市町村)が行います。勧告は、指導をしても改善されないときに出されます。指導の段階で修繕や草刈りを済ませれば勧告には進まないので、通知が届いたら担当課に連絡し、対応の予定を伝えましょう。
助言・指導・勧告・命令・行政代執行の流れ
状態によっては、最初から特定空家等として扱われることもあります。
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- ステップ1 調査と所有者等の特定
- 区(市町村)が現地を確認し、所有者等を調べます。相続登記が未了でも相続人に連絡が届きます。
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- ステップ2 管理不全空家等としての指導・勧告
- 指導を受け、改善されなければ具体的な措置を勧告されます(第13条)。
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- ステップ3 特定空家等としての助言・指導・勧告
- 除却や修繕などを求められ、改善されなければ猶予期限付きで勧告されます(第22条第1項・第2項)。
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- ステップ4 命令
- 正当な理由なく勧告に従わないと、措置を命じられ、標識などで公示されます(同条第3項)。
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- ステップ5 行政代執行
- 命令を履行しないと、区(市町村)が解体などを行います(同条第9項)。緊急時は命令を経ずに行われることもあります。
命令に違反すると50万円以下の過料の対象となり(第30条第1項)、行政代執行に要した費用は所有者等から徴収されます。
勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れる
住宅が建つ土地は、地方税法の住宅用地特例で課税標準が軽くなっています。
| 区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 200平方メートル以下の部分 | 価格の6分の1 | 価格の3分の1 |
| 200平方メートルを超える部分 | 価格の3分の1 | 価格の3分の2 |
しかし地方税法第349条の3の2第1項は、空家法による勧告を受けた管理不全空家等と特定空家等の敷地を住宅用地から除くと定めています(都市計画税は第702条の3)。
勧告を受けると、200平方メートル以下の部分では価格の6分の1だった固定資産税の課税標準が、軽減のない額に戻ります。実際の税額の増え方は、評価額や負担調整措置、区の減免の有無などで異なり、単純に6倍になるとは限りません。
なお解体して更地にしても、住宅の敷地ではなくなるため特例は受けられません。
相続人が複数いる場合・遺産分割前の管理責任
遺産分割前の相続財産は相続人全員の共有です(民法第898条第1項)。雨漏りの応急処置などの保存行為は各相続人がひとりででき(民法第252条第5項)、その他の管理は持分の価格の過半数で決めます。遺産分割前に区(市町村)が誰を指導・勧告の相手方とするかは、各区(市町村)の運用によります。鍵の管理や費用の立替えを先に決め、最終的な引継ぎ先は遺産分割協議書で明確にしておきましょう。
相続放棄をした方の責任は、令和5年4月1日施行の民法改正で整理されました。
(相続の放棄をした者による管理)第940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
民法 第940条第1項(相続の放棄をした者による管理)
放棄の時に空き家を現に占有していた方は、次の相続人や相続財産の清算人に引き渡すまで保存義務が残ります。放棄で責任から離れられるかは、占有の有無が分かれ目です。「現に占有している」に当たるかは、出入りや管理の実態によって判断が分かれます。
相続人全員が放棄した場合、区(市町村)が家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を請求できます(空家法第14条)。期限は相続放棄の手続きと3か月の期限で解説しています。
使わないと決めたときの出口
| 選択肢 | 注意点 |
|---|---|
| 売却する | 相続登記が前提。要件を満たせば譲渡所得の特別控除があります |
| 賃貸する | 修繕費がかかり、貸すと下記の特別控除の要件から外れます |
| 解体する | 解体費がかかり、住宅用地特例もなくなります |
| 相続土地国庫帰属制度 | 建物の存する土地は申請できないため、先に解体が必要です |
売却では、租税特別措置法第35条第3項の空き家の特別控除が検討対象です。昭和56年5月31日以前に建築された家屋を、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに1億円以下で売ることなどが要件で、最高3,000万円(相続人3人以上なら2,000万円)を控除できます。令和9年12月31日までの譲渡が対象で、適用の可否は税理士の確認が必要です。
どの出口でも、取得を知った日から3年以内の相続登記が義務です(不動産登記法第76条の2第1項)。詳しくは相続登記の義務化をご覧ください。世田谷区では、売買・賃貸・相続・解体などを専門のアドバイザーに無料で相談できる「せたがや空き家活用ナビ」を設けています。
費用と期間の目安
指導や勧告に手数料はかかりません。かかるのは見回り・草刈り・修繕や管理委託の費用、毎年の固定資産税・都市計画税、解体費です。解体費は構造や広さで大きく変わるため、複数の見積りを比べましょう。相続登記の3年と特別控除の期限があるため、相続開始から1年程度で方針を決めるのが目安です。
当事務所は相続のご相談を累計400件超お受けしており、相続人調査、遺産分割協議書の作成、財産調査まで一括してお引き受けしています(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)。
※相続登記の申請は司法書士、固定資産税や譲渡所得の特例の判断は税理士の業務で、必要に応じて連携してご案内しています。解体工事は、解体工事業の登録または建設業許可を受けた業者へご依頼ください。
よくある失敗3つ
①放棄すれば無関係だと思い込む。現に占有していた方には、引き渡すまで保存義務が残ります。
②遺産分割を先送りし、誰も管理しない。見回る人も費用を出す人も決まらず、指導や勧告に進みやすくなります。
③税の検討をせずに解体を急ぐ。住宅用地特例がなくなり、特別控除の要件にも関わります。先に税理士へ確認しましょう。
まとめ
相続した空き家には適切な管理の努力義務があり、放置すると管理不全空家等・特定空家等としての措置を受け、勧告で住宅用地特例が外れ、命令違反は50万円以下の過料の対象です。放棄しても現に占有していれば保存義務が残ります。遺産分割とあわせて、早めに出口を決めましょう。
相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。



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