許認可に必要な資本金・財産要件まとめ|建設業500万・派遣2,000万ほか 2026年版

「資本金はいくらにすればよいですか」というご質問に、当事務所では必ず「どの許認可を取る予定ですか」と聞き返します。会社法上、資本金は1円でも会社をつくれます。ところが許認可の世界では、一定の財産がなければそもそも申請が受け付けられない業種がいくつもあります

しかも要件の立て方は業種によってばらばらです。資本金の額そのものを見る業種、決算書の純資産(自己資本)を見る業種、現金・預金の残高まで見る業種、供託金を積ませる業種——同じ「お金の要件」でも中身が違います。この記事では、代表的な許認可業種の財産要件を一覧で整理し、設立時にいくら用意すべきかの判断材料をお示しします。

なぜ許認可に財産要件があるのか

理由はシンプルで、資金が尽きた事業者に事業をさせると、取引先や利用者が損害を受けるからです。建設業なら工事の途中で会社が倒れると発注者と下請が困り、人材派遣なら賃金が払えなくなると派遣労働者が困ります。財産要件は、その業種特有の被害を防ぐための入口の関門です。

建設業法は、許可の基準としてこう定めています。

(許可の基準)第7条

国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。

(中略)

四 請負契約(第三条第一項ただし書の政令で定める軽微な建設工事に係るものを除く。)を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用を有しないことが明らかな者でないこと。
建設業法 第7条第四号(一般建設業の財産的基礎)

条文には「500万円」という数字は書かれていません。具体的な金額は、この条文を運用するための基準(許可事務ガイドライン・各都道府県の手引)で定められています。法律に数字がないからこそ、申請前に最新の手引を確認する必要がある、という構造です。

業種別の財産要件 一覧

代表的な業種を並べると、要件の性格の違いがはっきりします。

業種 財産要件の内容 見られる数字
建設業(一般) 自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力 自己資本・預金残高
建設業(特定) 資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上、流動比率75%以上、欠損が資本金の20%以内 資本金・自己資本・比率
労働者派遣 基準資産額2,000万円×事業所数、現金・預金1,500万円×事業所数、基準資産額が負債の7分の1以上 純資産・現預金・負債比率
有料職業紹介 基準資産額500万円×事業所数、現金・預金150万円+60万円×(事業所数−1) 純資産・現預金
宅地建物取引業 営業保証金1,000万円を供託(従たる事務所は1か所500万円)。保証協会に加入すれば分担金60万円(従たる事務所は30万円) 供託金・分担金
旅行業(第1種) 基準資産額3,000万円、営業保証金7,000万円 純資産・供託金
旅行業(第2種) 基準資産額700万円、営業保証金1,100万円 純資産・供託金
旅行業(第3種) 基準資産額300万円、営業保証金300万円 純資産・供託金
旅行業(地域限定) 基準資産額100万円、営業保証金100万円 純資産・供託金
一般貨物自動車運送 事業開始に要する資金の100%以上の自己資金を、申請日から許可日まで常時確保 自己資金・預金残高
産業廃棄物収集運搬 経理的基礎(債務超過でないこと、継続的に事業を行える財務内容であること) 決算書全体
飲食店営業・古物商・旅館業 財産要件なし

この表から読み取っていただきたいのは、「資本金」を直接見る業種は実は少数派だということです。多くは決算書の純資産や現預金の残高を見ます。したがって資本金を大きくしても、開業費で使ってしまえば要件を満たせなくなります。この点は後ほど詳しくご説明します。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

建設業 一般は500万円、特定は4つの数字

最も相談が多い業種です。一般建設業の財産的基礎は、次のいずれかを満たすことで確認されます。

  • 直前の決算の自己資本(純資産の合計)が500万円以上であること
  • 500万円以上の資金調達能力があること(金融機関の残高証明書などで証明)

設立したばかりで決算がまだ来ていない会社は、資本金が500万円以上であればそれで確認されます。資本金が500万円未満でも、申請直前に500万円以上の預金残高証明書を用意できれば要件を満たせます。証明方法の詳細は建設業許可の財産的基礎(500万円)の証明方法とは?で解説しています。

特定建設業になると、見られる数字が4つに増えます。

  • 資本金の額が2,000万円以上
  • 自己資本の額が4,000万円以上
  • 流動比率(流動資産÷流動負債)が75%以上
  • 欠損の額が資本金の20%以内

特定建設業は、元請として下請に大きな金額を出す立場になるための許可です。下請への支払いが滞らないよう要件が重くなっています。一般と特定の違いは特定建設業と一般建設業の違いとは?をご覧ください。

労働者派遣・有料職業紹介 現金の残高まで見られる

人材ビジネスは、財産要件が最も厳しい部類です。労働者派遣法の許可基準は、条文上は次のように抽象的に書かれています。

(許可の基準等)第7条

厚生労働大臣は、第五条第一項の許可の申請が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。

(中略)

四 前二号に掲げるもののほか、申請者が、当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること。
労働者派遣法 第7条第1項第四号(事業を的確に遂行する能力)

この「能力」の中身が、厚生労働省の業務取扱要領で数字として示されています。

  • 基準資産額(資産の総額から繰延資産・営業権を除き、負債の総額を引いた額)が2,000万円×事業所数以上
  • 基準資産額が負債の総額の7分の1以上
  • 事業資金としての自己名義の現金・預金が1,500万円×事業所数以上

つまり、1つの事業所で派遣業を始めるだけでも純資産2,000万円と現預金1,500万円が必要です。派遣労働者が10人以下・5人以下の中小企業向けに緩和措置がありますが、この緩和は既に派遣事業を行っていた事業者からの申請に限られており、これから新規に始める会社は使えません

有料職業紹介事業はこれより軽く、基準資産額500万円×事業所数、現金・預金150万円+60万円×(事業所数−1)です。人材ビジネスを検討する場合、まず職業紹介から始めて、資本を厚くしてから派遣へ広げるという順序は現実的な選択肢になります。

宅建業・旅行業 供託というかたちの財産要件

この2業種は、純資産だけでなくお金を法務局や供託所に預けるという独特の仕組みを持っています。

宅地建物取引業は、免許を受けた後に営業保証金1,000万円(従たる事務所は1か所につき500万円)を供託して初めて営業を開始できます。ただし実務上は、保証協会に加入して弁済業務保証金分担金60万円(従たる事務所は30万円)を納付する方法がほとんどです。1,000万円と60万円では、開業のハードルがまったく違います。詳しくは宅地建物取引業(宅建業)免許の取り方で解説しています。

旅行業は、登録の種別ごとに基準資産額と営業保証金の両方が定められています。第1種は基準資産額3,000万円・営業保証金7,000万円と大きい一方、地域限定旅行業なら基準資産額100万円・営業保証金100万円まで下がります。地域の観光を扱う小規模な事業から始めるなら、こちらが現実的です。なお、旅行業協会に加入すれば、営業保証金の供託に代えてその5分の1の額を弁済業務保証金分担金として納付できます。

「資本金」と「自己資本」「基準資産額」はどう違うか

ここを混同すると、設計を誤ります。

用語 意味 使ってしまうと減るか
資本金 出資として払い込まれ、登記された額 減らない(減資しない限り固定)
自己資本・純資産 資産の総額から負債の総額を引いた額。資本金+利益剰余金など 減る(赤字を出せば目減りする)
基準資産額 純資産から繰延資産・営業権(のれん)を除いた額 減る
現金・預金 決算日または証明日時点の手元資金 減る(設備投資や仕入れで即座に減少)

よくあるのが、資本金2,000万円で設立したのに、初年度に赤字を出して純資産が1,500万円に減り、更新のときに要件を割ってしまうというケースです。資本金は登記された固定の数字ですが、許認可が見ているのはたいてい純資産や現預金の側です。許認可の財産要件は「積んだ額」ではなく「残っている額」が問われると覚えてください。

設立と許可をセットで設計する手順

資本金の設計は、会社をつくる前に済ませるべき作業です。

  1. ステップ1 取る許認可をすべて洗い出す
    本業の許可だけでなく、将来広げる可能性のある業種も含めて書き出します。建設業と産業廃棄物収集運搬、宿泊業と飲食業のように、組み合わせで取ることが多い許認可には特に注意します。
  2. ステップ2 各許認可の財産要件を確認する
    金額だけでなく、何を見る要件か(資本金・純資産・現預金・供託)を確認します。要件は改正されるため、必ず最新の手引や公示で確認します。
  3. ステップ3 最も重い要件に資本金を合わせる
    複数の許認可を取るなら、いちばん高い基準に合わせます。開業費で目減りする分を上乗せしておくのが実務のコツです。
  4. ステップ4 消費税・登録免許税との兼ね合いを確認する
    資本金1,000万円以上にすると設立第1期から消費税の課税事業者になります。株式会社の設立登記の登録免許税は資本金の1000分の7(最低15万円)で、資本金が約2,143万円を超えると15万円を上回ります。
  5. ステップ5 定款・出資・許可申請の順序を決める
    定款の事業目的に許認可の文言が入っていないと、申請時に定款変更が必要になります。会社の事業目的の書き方を参考に、設立段階で目的まで作り込みます
  6. ステップ6 残高証明のタイミングを合わせる
    建設業の500万円や派遣の現預金は、証明日時点の残高で判断されます。設備投資や仕入れの支払いと重ならない時期を選んで証明書を取得します。

よくある失敗

  • 資本金1円で設立してから建設業許可を取ろうとする:500万円の残高証明で対応できますが、法人名義の口座に一時的に500万円を用意する必要があります
  • 要件ぎりぎりの資本金にする:初年度が赤字だと純資産が要件割れし、更新できなくなります
  • 見せ金で残高証明を取る:一時的に借り入れて証明書を取り、すぐ返す行為は問題視されます。継続的に資金があることが求められます
  • 事業所を増やすときに要件が倍になることを忘れる:派遣・職業紹介は事業所数に比例して要件が増えます
  • 資本金1,000万円ちょうどにしてしまう:消費税の免税期間を失います。会社の資本金はいくらにすべき?で判断基準を解説しています

費用と期間の目安

資本金そのものは会社に残るお金であって、支払って消えるものではありません。ただし資本金の額に連動して増える費用があります。株式会社の設立登記の登録免許税は資本金の額の1000分の7(最低15万円)、合同会社は1000分の7(最低6万円)です。供託金が必要な業種では、宅建業の営業保証金1,000万円、旅行業の営業保証金のように、まとまった資金が事業とは別に固定される点を資金計画に織り込んでおく必要があります。

期間の目安は、会社設立が2〜3週間、その後の許認可申請が業種により1〜3か月です。設立と許可を並行して設計すれば、開業までの期間を1か月以上短縮できることがあります。

当事務所にご依頼いただく場合の報酬の目安は、会社設立の手続き一式が10万円台から、許認可申請との同時ご依頼は割引でご案内しています(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)。

まとめ

許認可業種の資本金設計は、次の3点で整理できます。

  • 業種ごとに見られる数字が違う。資本金なのか、純資産なのか、現預金なのか、供託なのかを確認する
  • 「積んだ額」ではなく「残っている額」が問われる。赤字や開業費で目減りする前提で余裕を持たせる
  • 最も重い要件に合わせる。将来取る予定の許認可まで含めて設計すれば、増資のやり直しを避けられる

資本金は後から増やすこともできますが、増資には登記費用と手間がかかります。取りたい許可が決まっているなら、設立の段階で必要額を積んでおくのがいちばん安上がりです。許認可と会社設立をあわせて設計する考え方は、許認可が必要な事業の会社設立でも解説しています。

会社設立・法人化の全体像は、会社設立の総合ガイドでまとめて解説しています。

行政書士 藤原友事務所(東京都世田谷区大原)では、建設業・産業廃棄物・宅建業・旅館業など多くの許認可を扱っており、「その許可が取れる会社」をゼロから設計することを得意としています。初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)のほか、オンラインでのご相談にも対応しています。「この事業なら資本金はいくら必要か」という段階から、お気軽にご相談ください。

【要確認】各業種の財産要件の金額・運用は改正されることがあります。特に労働者派遣・有料職業紹介の中小企業向け配慮措置の適用範囲、旅行業の営業保証金の加算(取扱額に応じた増額)、一般貨物自動車運送事業の所要資金の算定方法は、申請時点の最新の公示・手引で定められています。

出典