事業譲渡で許認可は引き継げる?会社を売買する前に確認したい業種別の扱い 2026年版

「後継者がいないので、事業を同業の会社に譲ることになった」「同業を買収して事業を広げたい」——いわゆるM&A(会社や事業の売買)のご相談が、近年はっきりと増えています。

その際に見落とされがちなのが許認可の扱いです。建設業許可、旅館業許可、産業廃棄物処理業の許可、宅地建物取引業の免許、古物商許可——事業の中身が許認可に支えられている場合、許認可が引き継げるかどうかで取引の設計そのものが変わります。この記事では、許認可の承継の原則と業種ごとの違いを、世田谷区大原の行政書士・藤原友事務所が整理します。

原則:事業譲渡では許認可は引き継げない

まず押さえていただきたい大原則です。許認可は「その事業者」に対して与えられたものであり、事業とセットで自動的に移るものではありません。

事業譲渡は、法律上は「事業を構成する財産や契約を個別に売り渡す取引」です。土地・建物・機械・在庫・従業員との雇用契約・取引先との契約などをひとつずつ移していきます。ところが、行政庁から与えられた許認可は財産ではないため、原則として譲渡の対象にならず、買い手は自分の名前で取り直す必要があります

これを知らずに進めてしまうと、譲渡日から新しい許可が下りるまでの間、事業を営めない空白期間が生じます。許認可事業では、この空白がそのまま売上の断絶と信用の毀損につながります。

株式譲渡なら許認可はそのまま維持できる

一方、株式譲渡(会社そのものの持ち主が変わる取引)であれば、許認可は基本的にそのまま維持されます

理由はシンプルで、株主が入れ替わっても会社という法人格は同一のままだからです。許認可を持っているのは会社であり、株主ではありません。したがって許可番号も有効期間も変わりません。

ただし、まったく手続きが不要というわけではありません。株式譲渡に伴って役員が交代したり、経営を担う人が変わったりする場合は、変更届や要件の再確認が必要です。建設業であれば、経営業務の管理責任者や専任技術者が退任すると要件を満たさなくなり、最悪の場合は許可の取消しにつながります。

「株式譲渡なら安心」ではなく、買収後も許可要件を満たし続けられる体制になっているかどうかが、取引の成否を分ける勘所です。契約前に必ず確認してください。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

建設業は事前の認可で承継できる(令和2年10月〜)

原則の例外として整えられたのが、建設業の承継制度です。令和2年(2020年)10月1日施行の改正建設業法で、事業譲渡・合併・分割について事前に認可を受ければ、許可業者としての地位をそのまま引き継げるようになりました。

(譲渡及び譲受け並びに合併及び分割)第17条の2

建設業者が許可に係る建設業の全部(以下単に「建設業の全部」という。)の譲渡を行う場合(当該建設業者(以下この条において「譲渡人」という。)が一般建設業の許可を受けている場合にあつては譲受人(建設業の全部を譲り受ける者をいう。以下この条において同じ。)が当該一般建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る特定建設業の許可を、譲渡人が特定建設業の許可を受けている場合にあつては譲受人が当該特定建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る一般建設業の許可を受けている場合を除く。)において、譲渡人及び譲受人が、あらかじめ当該譲渡及び譲受けについて、国土交通省令で定めるところにより次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の認可を受けたときは、譲受人は、当該譲渡及び譲受けの日に、譲渡人のこの法律の規定による建設業者としての地位を承継する。

(中略)

7 第一項から第三項までの規定により譲受人等が譲渡人等の建設業者としての地位を承継した場合における承継許可等(当該承継に係る建設業の許可及び当該譲受人等が受けている建設業の許可(当該承継前に自ら受けたものに限る。)をいう。以下この項において同じ。)に係る許可の有効期間については、当該承継の日における承継許可等に係る許可の有効期間の残存期間にかかわらず、当該承継の日の翌日から起算するものとする。
建設業法 第17条の2第1項・第7項(譲渡及び譲受け並びに合併及び分割)

この制度の要点は3つです。

  1. 「あらかじめ」認可を受けることが絶対条件です。譲渡日の後に申請しても遡って承継することはできません
  2. 対象は建設業の全部の譲渡です。一部の業種だけを譲る使い方はできません
  3. 同一業種について、一方が一般建設業、他方が特定建設業の許可を持っている場合はこの制度を使えません(条文のカッコ書きの除外部分)

第7項のとおり、承継した許可の有効期間は承継の日の翌日から新たに5年として数え直されます。譲渡人の残り期間を引き継ぐわけではない点も実務上のポイントです。

なお、認可の審査にはおおむね1か月から3か月程度かかるとされます【要確認:所要期間は許可行政庁と時期により異なります】。譲渡日を先に決めてしまうと間に合わないことがあるため、日程は認可の見込みから逆算してください。建設業の承継そのものについては建設業許可の承継(事業承継・相続)で詳しく解説しています。

業種別の扱いを整理する

主な許認可について、事業譲渡での扱いを一覧にしました。

許認可 事業譲渡での扱い
建設業許可 事前の認可を受ければ承継できる(建設業法第17条の2)
旅館業許可 譲渡人・譲受人が都道府県知事の承認を受ければ承継できる(旅館業法第3条の2)
産業廃棄物処理業の許可 事業譲渡での承継の規定はなく、原則として取り直し
宅地建物取引業の免許 承継できず、買い手が新規に免許を取得する
古物商許可 承継の規定はなく、買い手が新規に許可を取得する
飲食店営業許可 施設に対する許可だが営業者が変われば手続きが必要

旅館業については、法律に明文の承継規定があります。

第3条の2

前条第一項の許可を受けて旅館業を営む者(以下「営業者」という。)が当該旅館業を譲渡する場合において、譲渡人及び譲受人がその譲渡及び譲受けについて都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人は、営業者の地位を承継する。
旅館業法 第3条の2第1項(営業の譲渡)

宿泊施設の売買は近年活発ですが、承認は「あらかじめ」受ける必要があり、承認前に営業を始めれば無許可営業になります。旅館業許可の要件そのものは簡易宿所の営業許可、民泊との違いは民泊・旅館業許可の総合ガイドでも解説しています。

産業廃棄物処理業については、合併・分割・相続については承継の規定がありますが、事業譲渡そのものについての承継規定はありません。収集運搬業の許可を前提とした取引では、買い手側で新規許可を取得する日程を織り込む必要があります。詳しくは産業廃棄物収集運搬業の新規許可をご覧ください。

宅地建物取引業の免許は、事業譲渡でも合併でも承継されず、買い手が自分で免許を取得することになります(宅地建物取引業免許の取得)。

経営力向上計画の「許認可承継の特例」という選択肢

もうひとつ、中小企業等経営強化法にもとづく経営力向上計画の認定を受けることで、一定の許認可を事業譲渡で承継できる特例があります。事業承継を含む経営力向上計画をあらかじめ認定してもらい、その計画に従って事業を承継することで、許認可に係る地位を引き継げるという仕組みです。

ただし、対象となる許認可は限られており、すべての業種で使えるわけではありません。旅館業や建設業など一部の業種が対象とされていますが、対象許認可の範囲は制度改正で変わることがあるため、利用を検討される際は中小企業庁の最新の手引きでのご確認をおすすめします【要確認】

取引の前に踏むべき手順

許認可事業の売買では、次の順序で進めると事故が起きにくくなります。

  1. ステップ1 対象事業に必要な許認可を洗い出す
    営業許可・免許・登録・届出まで含めて、事業を続けるために必要なものをすべて列挙します。付随的な許認可(産業廃棄物・古物商など)の見落としが特に多い箇所です。
  2. ステップ2 それぞれの承継可否を確認する
    承継できるもの、事前認可・承認が必要なもの、取り直しが必要なものに分類します。ここで取引の手法(株式譲渡か事業譲渡か)の判断材料が揃います。
  3. ステップ3 買い手側が要件を満たせるか検証する
    取り直しになる許認可について、買い手が要件(人的要件・財産的基礎・事務所・設備)を満たせるかを確認します。満たせなければ取引そのものを組み替える必要があります。
  4. ステップ4 認可・承認の申請日程から逆算して譲渡日を決める
    事前認可が必要な許認可は、審査期間を見込んで譲渡日を設定します。譲渡日を先に固めてしまうのが最大の失敗パターンです。
  5. ステップ5 取引後の変更届を漏れなく出す
    役員・商号・営業所・資本金などが変われば、許認可ごとに変更届が必要です。期限が短いものが多いため、引継ぎ直後の対応リストを作っておきます。

よくある失敗

譲渡日を先に決めてしまった……最も多い失敗です。建設業の認可も旅館業の承認も「あらかじめ」受けることが要件ですから、日程が合わなければ承継そのものができません。

株式譲渡だから何もしなくてよいと考えた……法人格は同じでも、経営を担う人が抜ければ許可要件を満たさなくなります。買収後に慌てて人材を探す事例は少なくありません。

付随的な許認可を見落とした……本業の許可だけを確認し、産業廃棄物や古物商といった周辺の許認可を見落とすケースです。事業のどの部分がどの許認可に支えられているかを、契約前に棚卸ししてください。

許認可の有効期間を確認していなかった……譲り受けた直後に更新期限が来ることがあります。建設業の承継では有効期間が承継日の翌日から数え直される一方、取り直しの許認可では新規取得と同じ手間がかかります。

契約書に許認可に関する条項を入れていなかった……認可・承認が下りなかった場合の取扱い(解除条項)を定めていないと、当事者間の紛争になります。

当事務所のサポートと業際について

行政書士・藤原友事務所では、許認可を持つ会社の売買・事業承継について、許認可の側から取引を設計するお手伝いをしています。

  • 対象事業に必要な許認可の洗い出しと、承継可否の整理
  • 建設業の事業譲渡・合併・分割にかかる認可申請の代行
  • 旅館業の営業者変更(譲渡承認)の申請代行
  • 取り直しになる許認可の新規取得
  • 取引後の各種変更届の代行

なお、株式譲渡契約・事業譲渡契約に伴う登記手続きは司法書士、税務の取扱いは税理士、当事者間に争いがある場合の交渉や訴訟は弁護士の業務です。当事務所では必要に応じて各専門家と連携してお手伝いしますので、窓口をひとつにまとめたい場合もご相談ください。

費用はご依頼の範囲と許認可の数によって変わります。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。

初回のご相談は無料です。電話(03-4500-1030)のほか、オンラインでのご相談にも対応しています。「この事業を買っても許可はそのまま使えるのか」という段階のご相談でも構いません。

まとめ

許認可は原則として事業譲渡では引き継げず、買い手が取り直すのが基本です。株式譲渡であれば法人格が同一のため維持されますが、許可要件を満たす人材が残るかどうかの確認が欠かせません。建設業と旅館業には事前の認可・承認による承継の制度があり、いずれも「あらかじめ」受けることが条件です。取引の日程は、許認可の手続きから逆算して決めてください。

会社設立・法人化の全体像は、会社設立の総合ガイドでまとめて解説しています。

出典