宿泊施設の防火管理者と消防設備の点検・報告|収容人員30人が分かれ目 2026年版
旅館業の許可や民泊の届出のお手伝いをしていると、交付を受けた時点で肩の荷が下りたようなお顔をされる方が多くいらっしゃいます。気持ちはよく分かります。ただ、消防に関する義務は、そこから始まるもののほうが長く続きます。
開業前に必要なのは消防法令適合通知書の交付を受けることですが、開業後には防火管理者の選任、消防計画の作成、訓練の実施、そして消防用設備等の点検と報告が待っています。この記事では、その全体像と、どの規模から何が必要になるのかを整理します。

宿泊施設に続く3つの継続義務
旅館・ホテル・簡易宿所、そして家主不在型の民泊は、消防法令上、消防法施行令別表第一の(五)項イという用途に分類されます。不特定多数の人が出入りする特定防火対象物で、共同住宅や事務所より重い規制がかかる区分です。
この用途の施設に継続して求められるのは、大きく次の3つです。
- 防火管理者の選任と届出…収容人員が30人以上になると必要
- 消防計画の作成・届出と訓練の実施…防火管理者の職務として法律に定められています
- 消防用設備等の点検と報告…規模を問わず必要。報告は1年に1回
順に見ていきます。
防火管理者が必要になるのは収容人員30人以上
まず根拠となる条文です。
第8条
1 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店(これに準ずるものとして政令で定める大規模な小売店舗を含む。以下同じ。)、複合用途防火対象物(防火対象物で政令で定める二以上の用途に供されるものをいう。以下同じ。)その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。
2 前項の権原を有する者は、同項の規定により防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
消防法 第8条第1項・第2項(防火管理者の選任と届出)
「政令で定めるもの」の中身が、収容人員の基準です。
(防火管理者を定めなければならない防火対象物等)第1条の2
(中略)
3 法第八条第一項の政令で定める防火対象物は、次に掲げる防火対象物とする。
一 別表第一に掲げる防火対象物(同表(十六の三)項及び(十八)項から(二十)項までに掲げるものを除く。次条において同じ。)のうち、次に掲げるもの
(中略)
ロ 別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項イ、ハ及びニ、(九)項イ、(十六)項イ並びに(十六の二)項に掲げる防火対象物(同表(十六)項イ及び(十六の二)項に掲げる防火対象物にあつては、同表(六)項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものを除く。)で、収容人員が三十人以上のもの
消防法施行令 第1条の2第3項第一号ロ(防火管理者を定めなければならない防火対象物)
宿泊施設が含まれる(五)項イは、この「ロ」に当たります。収容人員30人以上が分かれ目です。
収容人員はどう数えるのか
ここが実務でいちばん誤解されます。「うちは客室が5部屋だから30人には届かない」というお話をよく伺いますが、消防法施行規則が定める算定方法は次のとおりです。(五)項イの場合、以下を合算します。
- 従業者の数
- 洋式の宿泊室…その宿泊室にあるベッドの数
- 和式の宿泊室…床面積を6平方メートルで除して得た数。ただし簡易宿所および主として団体客を宿泊させるものは3平方メートルで除する
- 集会・飲食・休憩の用に供する部分…固定式のいす席はその数、その他の部分は床面積を3平方メートルで除して得た数
簡易宿所の和室は「1人あたり3平方メートル」で数えるため、想像よりずっと早く30人に届きます。和室部分が合計60平方メートルあれば、それだけで20人。ラウンジや食堂があれば、そこも3平方メートルで割った数が加わります。図面の段階で一度計算してみてください。
さらに東京消防庁は、収容人員は「建物全体」で判定すると案内しています。共同住宅の一室で民泊を行う場合、その一室だけで数えるのではなく、建物全体の収容人員が30人以上であれば防火管理者が必要になるという考え方です。マンションの一室での民泊であっても、無関係ではありません。
甲種と乙種の分かれ目は延べ面積300平方メートル
防火管理者には甲種と乙種があります。(五)項イの場合、延べ面積300平方メートル以上なら甲種、300平方メートル未満なら乙種で足ります(消防法施行令第3条)。資格は講習を修了して得るのが一般的です。
東京消防庁の令和8年度の案内では、防火・防災管理新規講習はオンライン約7時間と実技講習1日の組合せで、実技講習は午前9時から午後4時まで。教材費は7,000円(税込)と配送代です。対面講習の場合は会場で2日間の受講が必要とされています。実施団体や年度によって内容が変わる点は、申込み時点の最新の案内が基準となります。
選任したら、遅滞なく所轄の消防長または消防署長へ届け出ます。解任したときも同じです。
消防計画の作成と訓練
防火管理者を選任して終わりではありません。法律が防火管理者に行わせるべきものとして挙げているのは、消防計画の作成、その計画に基づく消火・通報・避難の訓練の実施、消防用設備等の点検および整備、火気の使用の監督、避難上必要な構造・設備の維持管理、そして収容人員の管理です。
消防計画は作成したら消防署へ届け出ます。宿泊施設の場合、夜間に従業員が少なくなる時間帯をどう扱うか、外国語しか話さない宿泊者にどう避難を伝えるかといった点が、実際の運用で問われます。形式を整えるだけでなく、自分の施設の実情に合わせて作ることが大切です。
消防用設備等の点検と報告
もうひとつの柱が、設置した消防用設備等の維持管理です。
第17条の3の3
第十七条第一項の防火対象物(政令で定めるものを除く。)の関係者は、当該防火対象物における消防用設備等又は特殊消防用設備等(第八条の二の二第一項の防火対象物にあつては、消防用設備等又は特殊消防用設備等の機能)について、総務省令で定めるところにより、定期に、当該防火対象物のうち政令で定めるものにあつては消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検させ、その他のものにあつては自ら点検し、その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。
消防法 第17条の3の3(消防用設備等の点検および報告)
点検の種類と周期は、平成16年消防庁告示第9号で次のように定められています。
| 種類 | 周期 | 内容 |
|---|---|---|
| 機器点検 | 6か月に1回 | 非常電源や動力消防ポンプの正常な作動、機器の適正な配置・損傷の有無など主として外観から判別できる事項、外観または簡易な操作により判別できる機能 |
| 総合点検 | 年に1回 | 設備の全部または一部を実際に作動させ、または使用して総合的な機能を確認する |
点検の結果は維持台帳に記録したうえで、消防長または消防署長へ報告します。報告の周期は用途によって分かれます。
- (五)項イ(旅館・ホテル・簡易宿所など)…1年に1回
- (五)項ロ(共同住宅)など特定防火対象物以外…3年に1回
宿泊施設は特定防火対象物ですから、毎年の報告が必要です。点検は6か月ごと、報告は1年ごと、と覚えてください。
自分で点検してよい施設と、有資格者に頼む施設
点検は誰が行ってもよいわけではありません。消防法施行令第36条第2項により、次の防火対象物は消防設備士または消防設備点検資格者に点検させなければなりません。
- 延べ面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物
- 延べ面積1,000平方メートル以上の非特定防火対象物で、消防長または消防署長が指定するもの
- 特定一階段等防火対象物
- 全域放出方式の二酸化炭素消火設備が設置されている防火対象物
3つ目に注意してください。避難階以外の階に宿泊室があり、そこから避難階または地上に直通する階段が2つ以上ない建物(屋外階段などであれば1つでも可)は、延べ面積が小さくても有資格者による点検が義務になります。木造2階建てを改装した小規模なゲストハウスは、まさにここに当たりやすい類型です。
該当しない小規模な施設については、消防庁が公開している点検アプリを使って、資格がなくても点検と報告書の作成を行うことができます。
民泊の場合の用途判定
住宅を活用した民泊は、宿泊室の床面積や家主が居住しているかどうかによって、消防法令上の用途が変わります。消防庁の整理では、家主が不在となる場合や、宿泊室の床面積の合計が50平方メートルを超える場合は(五)項イ、すなわち旅館・ホテルと同じ扱いになります。家主が居住していて宿泊室が50平方メートル以下であれば、一般住宅または共同住宅としての扱いになります。
家主居住・不在の判断は、一戸建てなら建物単位、共同住宅なら住戸単位で行うとされています。用途がどちらになるかで、必要な消防用設備等がまったく変わります。物件を決める前に、この判定を管轄消防署に確認しておくことを強くおすすめします。建築基準法との関係は民泊・旅館業の消防法と建築基準法|用途変更と設備の要件を解説、届出に必要な通知書の取り方は民泊の消防法令適合通知書の取り方|流れと必要書類を解説で解説しています。
管理権原が分かれている建物では統括防火管理者
雑居ビルの一部を借りて簡易宿所を営む場合など、一棟の建物の管理について権原が分かれているときは、建物全体の防火管理を統括する統括防火管理者を協議して定めることが求められます(消防法第8条の2)。各テナントが作る消防計画は、統括防火管理者が作る建物全体の消防計画に適合していなければなりません。
自分の区画のことだけを考えていると見落とす論点です。ビルのオーナーや管理会社とは、開業前に話をしておきましょう。
違反したときの罰則
- 防火管理者の選任届出を怠った場合…30万円以下の罰金または拘留(消防法第44条第八号)
- 点検結果の報告をせず、または虚偽の報告をした場合…30万円以下の罰金または拘留(同条第十一号)
- 防火管理業務が法令や消防計画に従って行われていないとして出された措置命令に違反した場合…1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(消防法第41条第1項第二号)
いずれも法人にも罰金刑が科される両罰規定の対象です。金額の多寡以上に、旅館業の許可や民泊の届出に影響しうる点を重く見てください。
開業から報告までの流れ
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- ステップ1 用途判定と設備の確認
- 管轄消防署に図面を持ち込み、(五)項イになるのか一般住宅扱いになるのかを確認します。必要な消防用設備等はここで決まります。
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- ステップ2 設備の工事と届出
- 消防設備士が工事する設備は着手の10日前までに着工届、工事完了後4日以内に設置届を提出します。市町村の条例により防火対象物使用開始届が必要な場合もあります。
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- ステップ3 収容人員を計算する
- 従業者数、ベッド数、和室の床面積、集会・飲食部分の床面積から算定します。30人以上なら次のステップへ進みます。
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- ステップ4 防火管理者の資格を取る
- 延べ面積300平方メートル以上なら甲種、未満なら乙種の講習を受講します。申込みから受講まで日数がかかるため、早めに動きます。
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- ステップ5 選任届と消防計画作成届を出す
- 選任したら遅滞なく届け出ます。消防計画は施設の実情、とくに夜間の体制と外国語対応を織り込んで作ります。
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- ステップ6 消防法令適合通知書の交付を受ける
- 民泊の届出には、消防法令に適合していることを示す通知書を添えます。消防署の立入検査を経て交付されます。
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- ステップ7 点検と報告を毎年続ける
- 機器点検は6か月ごと、総合点検は年1回。結果を維持台帳に記録し、1年に1回、消防署へ報告します。訓練の実施も忘れずに。
よくある失敗
- 客室数だけで収容人員を判断する…和室は面積で数えます。簡易宿所は1人あたり3平方メートルです。
- 自分の住戸だけで30人を判定する…東京消防庁は建物全体で判定すると案内しています。
- 点検はしているが報告していない…点検と報告は別の義務です。報告を怠ることが罰則の対象になります。
- 小規模だから自分で点検できると思い込む…直通階段が1つしかない建物などは、面積に関係なく有資格者の点検が必要です。
- 防火管理者が退職したまま放置する…解任したときも届出が必要で、後任を選任しないままの状態は是正の対象になります。
- 訓練を一度も実施していない…消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練は、防火管理者の職務として法律に明記されています。
必要となる消防用設備等や用途の判定は、建物の規模・構造・階数によって変わります。本文は制度の一般的な説明です。個別の施設については、消防署への事前相談から確認まで、当事務所に一括してご依頼いただけます。まずはご相談ください。講習の日程・手数料・教材費も、実施団体と年度により異なります。
当事務所にご相談いただく場合
当事務所では、旅館業の許可・住宅宿泊事業の届出について、物件を決める前の用途判定の確認から、保健所・消防署・建築指導課との事前相談、届出書類の作成までを一貫してお受けしています。開業後に続く点検・報告の年間スケジュールもあわせてお渡ししますので、「何をいつまでにやるのか分からない」という状態を作りません。
運営開始後の義務全般は民泊の運営で必要な義務とは?宿泊者名簿・標識・180日報告を解説、簡易宿所の許可そのものは簡易宿所の営業許可の取り方|要件・手続き・費用を解説でご確認いただけます。初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでご相談いただけます。費用はご依頼の範囲によって変わりますので、正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示します(ご安心ください)。
まとめ
宿泊施設の消防に関する義務は、収容人員30人以上で防火管理者と消防計画、規模を問わず6か月ごとの機器点検と年1回の総合点検、そして1年に1回の報告という2本立てです。つまずきやすいのは収容人員の数え方で、和室は面積で、簡易宿所なら1人あたり3平方メートルで数えます。しかも判定は建物全体で行います。そして、直通階段が1つしかない小規模な建物は、面積に関係なく有資格者の点検が必要です。開業前に用途判定を、開業後に年間の点検・報告スケジュールを。この2つを押さえておけば、消防で慌てることはなくなります。
民泊・旅館業の許可と届出の全体像は、民泊・旅館業許可の総合ガイドでまとめて解説しています。




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