民泊・旅館業の物件の選び方|買う・借りる前に確認する7つのポイント 2026年版

「良い物件が見つかったので、先に契約してから許可の相談をしようと思います」。

民泊や宿泊施設の開業をお考えの方から、よくいただくお話です。しかし、この順番でお進めになると、後戻りができなくなることがあります。物件は、契約してしまうと簡単には手放せません。そして、宿泊事業の可否は、建物の見た目や広さではなく、その土地と建物が背負っている法律上の条件で決まります。

この記事では、物件を買う・借りると決める前に確認しておきたい7つのポイントを、確認すべき順番にそってご説明します。

結論|物件は「契約前」に3か所へ相談する

最初に結論をお伝えします。宿泊事業の物件は、契約する前に、保健所・消防署・建築指導課の3か所へ同じ図面を持って事前相談に行くことが、いちばん確実な進め方です。

3か所と申し上げるのには理由があります。宿泊施設は、旅館業法(衛生)・消防法(防火)・建築基準法(用途と構造)という性格の異なる3つの法律から同時に条件を課されるためです。どれか1つでも満たせなければ営業はできません。しかも、この3つは互いに相談し合ってはくれませんので、我々事業者側が横断して確認するほかありません。

民泊(住宅宿泊事業)と旅館業許可では、そもそも求められる条件の重さが違います。両者の違いは、旅館業許可と民泊届出の違いで整理していますので、あわせてご覧ください。

ポイント1|用途地域(旅館業ができない地域があります)

最初に見ていただきたいのが用途地域です。不動産の物件広告には必ず記載があります。

建築基準法は、用途地域ごとに建てられる建物の種類を定めています。ホテルや旅館については、次のとおりです。

用途地域ホテル・旅館
第一種低層住居専用地域/第二種低層住居専用地域建てられない
第一種中高層住居専用地域/第二種中高層住居専用地域建てられない
田園住居地域建てられない
第一種住居地域3,000平方メートル以下なら可
第二種住居地域/準住居地域建てられる
近隣商業地域/商業地域/準工業地域建てられる
工業地域/工業専用地域建てられない

住居専用地域と田園住居地域、そして工業地域・工業専用地域では、ホテルまたは旅館を建てることができません。これは条件を整えれば通るという性質のものではなく、その場所では認められないという趣旨の規定です。

住宅宿泊事業(民泊)は「住宅」なので用途地域の制限を受けません

一方、住宅宿泊事業法にもとづく民泊は、建物としてはあくまで住宅です。そのため、住居専用地域でも実施できます。ここが民泊の大きな利点です。

ただし、その建物が法律上の「住宅」に当たるかどうかには、次のとおり要件が定められています。

(定義)第2条

この法律において「住宅」とは、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する家屋をいう。

一 当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること。

二 現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって、人の居住の用に供されていると認められるものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること。

住宅宿泊事業法 第2条第1項第一号・第二号(住宅の定義)

つまり、台所・浴室・便所・洗面設備の4点がそろっていることが前提になります。倉庫を改装した物件や、風呂のない事務所を検討される場合は、この4点を設けられるかどうかを先に確かめてください。なお、工業専用地域は住宅そのものが建てられない地域ですので、民泊もできません。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

ポイント2|用途変更(200平方メートルの分かれ目)

住宅や事務所として建てられた建物を宿泊施設として使う場合、建物の用途変更が問題になります。

(建築物の建築等に関する申請及び確認)第6条

建築主は、第一号若しくは第二号に掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(中略)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(中略)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。

一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二百平方メートルを超えるもの

建築基準法 第6条第1項第一号(確認を要する特殊建築物の規模)

ホテル・旅館は、この別表第一(い)欄に挙げられている特殊建築物です。そして建築基準法第87条第1項が、用途を変更してこの特殊建築物にする場合にも第6条を準用すると定めています。

用途変更の確認申請が必要になるのは200平方メートルを超える場合ですが、200平方メートル以下なら建築基準法を守らなくてよいという意味ではありません。手続きが不要になるだけで、避難や内装制限のルールそのものは適用されます。ここは誤解が非常に多いところです。

検査済証がない建物は要注意です

古い建物では、完成時の検査済証が交付されていない、あるいは紛失しているケースがあります。この場合、用途変更の確認申請の前提となる「今の建物が適法である」ことの証明ができず、調査からやり直しになります。国土交通省が調査のためのガイドラインを示していますが、費用と期間はどうしても大きく膨らみます。

物件の資料に検査済証が含まれているかどうかは、契約前に確認しましょう。詳しくは民泊・旅館業の消防法と建築基準法でも解説しています。

ポイント3|消防設備を設置できる建物か

宿泊施設になると、建物の消防法上の扱いが変わります。自動火災報知設備、誘導灯、消火器などが求められ、規模によってはスプリンクラー設備が必要になることもあります。

ここで確認していただきたいのは、費用よりもむしろ物理的に設置できるかどうかです。天井裏に配線を通せない、屋外に受信機を置く場所がない、貯水槽を設ける余地がないといった理由で断念する例は珍しくありません。

民泊の届出には消防法令適合通知書が必要です。取得の流れは民泊の消防法令適合通知書の取り方でご説明しています。

ポイント4|避難経路と接道

宿泊施設では、就寝する人が逃げられることが重視されます。直通階段が1つしかない建物、窓が開かない部屋、廊下の幅が足りない建物は、その時点で計画が止まります。

あわせて、敷地が道路に接しているかも確認が必要です。建築基準法第43条第1項は、建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならないと定めています。さらに同条第3項は、特殊建築物については条例でこれより厳しい制限を付け加えられるとしており、東京都の場合は東京都建築安全条例で接道の長さが加重されています。旗竿地や細い私道の奥にある物件は、住宅としては使えても宿泊施設にはできないことがあります。

ポイント5|管理規約と賃貸借契約の使用目的

分譲マンションの一室を検討される場合、管理規約で民泊が禁止されていないかが最優先の確認事項です。届出の際にも規約の写しなどの提出を求められます。詳しくは分譲マンションで民泊はできる?をご覧ください。

賃貸物件の場合は、賃貸借契約書の使用目的が「住居専用」となっていないかを確認し、必要であればオーナーから転貸と宿泊事業についての承諾を書面で得ましょう。口頭の了解だけで進めると、後から契約解除を求められる恐れがあります。

ポイント6|自治体の条例による上乗せ

民泊は法律で年間180日までとされていますが、多くの自治体がさらに条例で区域や期間を制限しています。世田谷区のように住居専用地域での平日営業を制限している区もあります。

各区の状況は東京23区の民泊 上乗せ条例まとめと世田谷区の民泊ルールで整理しています。利回りの試算は、法律上の180日ではなく、条例を反映した実際に営業できる日数で行ってください。

ポイント7|学校などが近くにないか

旅館業の許可では、周辺の教育施設との距離が審査されます。

(中略)第3条

3 第一項の許可の申請に係る施設の設置場所が、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。以下同じ。)の周囲おおむね百メートルの区域内にある場合において、その設置によつて当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるときも、前項と同様とする。

一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校(大学を除くものとし、次項において「第一条学校」という。)及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園(以下この条において「幼保連携型認定こども園」という。)

二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第七条第一項に規定する児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除くものとし、以下単に「児童福祉施設」という。)

三 社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)第二条に規定する社会教育に関する施設その他の施設で、前二号に掲げる施設に類するものとして都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区。以下同じ。)の条例で定めるもの

旅館業法 第3条第3項(学校等の周囲おおむね100メートルの区域内における許可の基準)

ここで重要なのは、100メートル以内にあれば直ちに不許可になるわけではないという点です。条文は「清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるとき」と定めており、知事等が学校側の意見を聴いたうえで判断します。ただし、意見照会の分だけ審査期間は確実に延びますので、スケジュールに織り込んでおく必要があります。

物件を決めるまでの進め方

ここまでの7点を、実際に動く順番に並べると次のようになります。

  1. ステップ1 事業の形を決める
    年間の営業日数、無人か有人か、想定するお客さまを先に決めます。ここが決まらないと、民泊の届出でよいのか、簡易宿所の営業許可まで取るのかが定まりません。
  2. ステップ2 用途地域を調べる
    候補物件の住所から用途地域を確認します。自治体の都市計画情報のウェブサイトで無料で調べられます。旅館業を考えているのに住居専用地域であれば、この時点で候補から外します。
  3. ステップ3 建物の資料をそろえる
    検査済証、確認済証、建物図面、登記事項証明書を売主や仲介会社から取り寄せます。図面がないと、以降の相談がすべて止まります。
  4. ステップ4 建築指導課へ相談する
    用途変更の要否、接道や避難の条例上の制限を確認します。ここで大きな工事が必要と分かれば、資金計画を組み直します。
  5. ステップ5 消防署へ相談する
    必要な消防用設備と、それを設置できるかを確認します。概算の見積りを取れる段階まで進めておくと安心です。
  6. ステップ6 保健所へ相談する
    客室の面積、便所や洗面の数、条例の上乗せ基準を確認します。あわせて近隣への事前周知の要否も聞いておきます。
  7. ステップ7 管理規約と契約条件を確認する
    管理規約、賃貸借契約の使用目的、オーナーの承諾を書面で確認します。ここまで済んでから、はじめて売買契約や賃貸借契約に進みます。
  8. ステップ8 契約し、許可・届出の手続きに入る
    契約後は工事と申請を並行して進めます。届出の全体像は民泊(住宅宿泊事業)の始め方をご覧ください。

よくある失敗

  • 用途地域を見ずに内見を重ねる……用途地域は物件広告に必ず書いてあります。先に見る習慣をつけるだけで、無駄な内見の大半は減らせます。
  • 「民泊可」という広告表示をそのまま信じる……広告の表示は行政の判断ではありません。管理規約や条例まで確認したうえでの表示とは限らないため、必ず裏を取る必要が。
  • 収支計画を180日で組む……条例の制限、清掃日、閑散期を考えれば、実際の稼働日数はこれより短くなります。
  • 消防の見積りを後回しにする……自動火災報知設備の工事費は、建物の規模によって金額が大きく変わります。契約前に概算をつかんでおくべき項目です。
  • 売主に検査済証の有無を聞かない……用途変更を伴う計画では、あるかないかで進め方がまったく変わります。

費用と期間の目安

行政への事前相談そのものに手数料はかかりません。実費として発生するのは、登記事項証明書などの証明書代、図面がない場合の作成費用、そして工事費です。旅館業の許可申請には別途、手数料がかかります。

期間の目安としては、事前相談から契約までにおおむね1か月、契約後、工事と申請を経て営業開始まで、民泊であれば2か月から3か月、旅館業許可であれば工事の規模により3か月から半年程度をみておくと安全です。当事務所にご依頼いただく場合の報酬は、物件の状況と自治体の運用によって作業量が変わります。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。

なお、簡易宿所やゲストハウスが建築基準法上どの用途に当たるか(ホテル又は旅館か、寄宿舎・下宿か)は特定行政庁の判断によります。また、接道や避難に関する条例の付加制限は自治体ごとに内容が異なります。いずれも事前相談で必ずご確認ください。

まとめ

宿泊事業で失敗する原因は、運営の巧拙ではなく物件選びの段階ですでに生じ得ます。用途地域、用途変更、消防、避難と接道、管理規約、条例の上乗せ、学校との距離。この7点を契約前に確認しておけば、後戻りのきかない失敗はほとんど防げます。物件は「気に入ったから買う」のではなく、「許可が取れると確認できたから買う」という順番でお考えください。

民泊・旅館業の許可と届出の全体像は、民泊・旅館業許可の総合ガイドでまとめて解説しています。

当事務所では、物件の候補が挙がった段階での可否の見立てから、保健所・消防署・建築指導課との事前相談、許可申請や届出の書類作成までを一貫してお手伝いしています。初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)のほか、オンラインでのご相談にも対応しています。

出典