相続人に未成年者や行方不明者がいるとき|特別代理人・不在者財産管理人 2026年版
戸籍を集めて相続人が確定した。財産の一覧もできた。ところが、そこから先に進まないご相談があります。相続人の中に未成年の子がいる場合と、連絡の取れない相続人がいる場合です。
どちらも、放っておいて解決することはありません。逆に、必要な手続きさえ分かっていれば、時間はかかっても確実に前へ進みます。この記事では、それぞれの場面で何を家庭裁判所に申し立てるのか、いくらかかるのか、どの順番で動けばよいのかをご説明します。
遺産分割協議は「相続人全員」でなければ無効
前提を確認します。遺産分割協議は、共同相続人の全員が参加して合意することで成立します。1人でも欠けた協議は無効で、その協議書では預貯金の解約も不動産の名義変更もできません。
ここで問題になるのが「参加できない人」がいる場合です。参加できない理由は大きく2つに分かれます。ひとつは本人はいるが、法律上、有効に意思表示ができない場合。もうひとつはそもそも本人がどこにいるか分からない場合です。前者の代表が未成年者、後者が行方不明の相続人です。
なお、「連絡は取れるが話し合いに応じてくれない」という相続人は、この記事で扱う類型とは別問題です。その場合は家庭裁判所の遺産分割調停・審判で解決を図ることになります。この違いを最初に整理しておくと、無駄な手続きをせずに済みます。

未成年者がいる場合|親権者との利益相反と特別代理人
父が亡くなり、相続人が母と未成年の子であるという、もっとも多い形を例にします。未成年者は単独で遺産分割協議をすることができないため、通常であれば親権者である母が代理します。ところが母自身も相続人です。母の取り分を増やせば子の取り分は減る。両者の利益が正面からぶつかります。
民法は、この場面に特別代理人という仕組みを用意しています。
(利益相反行為)第826条
1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法 第826条第1項・第2項(利益相反行為)
第2項に注目してください。未成年の子が2人以上いる場合は、子の人数に応じて特別代理人が必要になります。子どうしも遺産分割では利益が相反するためです。子が2人なら、少なくとも1人分は特別代理人を立てなければなりません。
申立ての概要は次のとおりです。
- 申立人…親権者または利害関係人
- 申立先…子の住所地の家庭裁判所
- 費用…収入印紙800円(子1人につき)と連絡用の郵便切手。郵便料は家庭裁判所ごとに異なります
- 必要書類…未成年者の戸籍謄本、親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票、そして遺産分割協議書案
実務上いちばん重要なのは、最後の遺産分割協議書案です。家庭裁判所は、その内容が未成年者の利益を害していないかを見ます。子の取り分を法定相続分より大きく下回らせる案は、そのままでは通りにくいとお考えください。「自宅は母がすべて相続し、子は何も取得しない」という案を出して差し戻される、というのがよくある流れです。代償金の支払いや、母が取得する合理的な理由を示すなど、案の作り方に工夫が要ります。
特別代理人の候補者は、その相続について利害関係のない親族(叔父・叔母など)を挙げるのが一般的です。誰も適任がいない場合は、専門職が候補になることもあります。
なお、親権者自身が相続人でない場合(すでに離婚しているなど)は、利益相反が生じないため特別代理人は不要です。また、親権者がいない未成年者については、まず未成年後見人の選任が必要になります。
行方不明の相続人がいる場合|不在者財産管理人
次に、住民票の住所に住んでおらず、どこにいるか分からない相続人がいる場合です。この人を無視して協議を進めることはできません。民法は不在者の財産を管理する仕組みを置いています。
(不在者の財産の管理)第25条
1 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)
ただし、選任された不在者財産管理人がそのまま遺産分割協議に参加できるわけではありません。管理人の本来の職務は財産の管理と保存であって、遺産分割はその権限を超える行為に当たるからです。
(管理人の権限)第28条
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法 第28条(管理人の権限)
したがって実務では、①不在者財産管理人の選任 → ②権限外行為許可の申立て → ③遺産分割協議という二段構えになります。この点を知らずに「管理人を立てれば終わり」と考えていると、日程が大きく狂います。
東京家庭裁判所の案内による費用と書類は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)、検察官 |
| 申立先 | 不在者の従来の住所地の家庭裁判所 |
| 収入印紙 | 800円 |
| 郵便切手 | 合計2,010円分(東京家庭裁判所の場合。内訳は同庁の案内による) |
| 予納金 | 不在者の預貯金・現金が十分にない場合は、原則として30万円から50万円 |
| 主な必要書類 | 不在者の戸籍謄本・戸籍附票、管理人候補者の住民票または戸籍附票、不在の事実を証する資料、財産目録と財産に関する資料、申立人の利害関係を証する資料 |
予納金が原則30万円から50万円かかる点は、事前にご家族で合意しておくべき最大のポイントです。管理人の報酬などに充てられる費用で、申立人が納めます。誰が負担するかを決めないまま申し立てると、後で揉めます。
もうひとつ準備に手間取るのが不在の事実を証する資料です。警察署長が発行する家出人届出受理証明書のほか、不在者あてに出した手紙が「あて所に尋ね当たらず」として返送されたものなどが使われます。まずは戸籍の附票で住所をたどるところから始めます。戸籍の集め方は相続の戸籍収集はどこまで必要?出生から死亡まで+広域交付制度を解説で詳しく解説しています。
7年以上生死が不明なら失踪宣告という選択肢
単に居所が分からないのではなく、生死そのものが分からない状態が続いている場合は、失踪宣告という別の道があります。
民法第30条は、不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告をすることができると定めます。危難に遭遇した場合は、その危難が去った後1年間で足ります(危難失踪)。宣告を受けた人は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。
費用は収入印紙800円と郵便切手のほか、官報公告料5,298円(失踪に関する届出の催告3,359円と失踪宣告1,939円の合計)がかかります。公告の手続きを経るため、申立てから宣告まで相応の期間を要します。
ここで見落としやすいのが、失踪宣告によって相続関係そのものが変わることです。死亡とみなされる時期が被相続人の死亡より前であれば、その人は相続人ではなくなり、その子が代襲相続人になります。手続きを選ぶ前に、相続関係がどう動くかを確認しておく必要があります。
2つの制度の使い分け
| 特別代理人 | 不在者財産管理人 | |
|---|---|---|
| 使う場面 | 親権者と未成年の子が共同相続人である場合など、利益が相反するとき | 相続人の所在が分からず、協議に参加できないとき |
| 根拠 | 民法第826条 | 民法第25条・第28条 |
| 申立先 | 子の住所地の家庭裁判所 | 不在者の従来の住所地の家庭裁判所 |
| 印紙 | 800円(子1人につき) | 800円 |
| 予納金 | 原則として不要 | 必要になる場合がある(原則30万円から50万円) |
| 協議への参加 | 選任されれば協議に参加できる | 別途、権限外行為許可が必要 |
| 職務の終わり | その協議についての代理が終われば終了 | 不在者が現れる、失踪宣告がされるなどするまで継続 |
手続きの流れ
行方不明の相続人がいるケースを例に、実際の進め方を示します。
-
- ステップ1 戸籍で相続人を確定する
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、相続人を確定します。ここで初めて存在を知る相続人が出てくることも珍しくありません。
-
- ステップ2 戸籍の附票で住所をたどる
- 戸籍の附票には住所の履歴が記録されています。最後の住所地へ手紙を出し、連絡が取れるかどうかを確かめます。ここで連絡がつけば、以下の手続きは不要です。
-
- ステップ3 不在の事実を証する資料をそろえる
- 返送された郵便物、家出人届出受理証明書などを準備します。あわせて財産目録と、その裏づけとなる残高証明書・登記事項証明書を用意します。
-
- ステップ4 不在者財産管理人の選任を申し立てる
- 不在者の従来の住所地の家庭裁判所へ申し立てます。予納金の額は申立て後に裁判所から知らされます。
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- ステップ5 遺産分割協議書の案を作る
- 不在者の取り分が法定相続分を下回らない内容が原則です。案の作り方は遺産分割協議書の作り方|書式・実印・印鑑証明と行政書士に頼むメリットをご覧ください。
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- ステップ6 権限外行為許可を申し立てる
- 協議書案を添えて、管理人が遺産分割協議に参加することの許可を得ます。ここで案の内容が審査されます。
-
- ステップ7 協議を成立させ、名義変更へ
- 許可された内容で協議書に署名押印し、預貯金の解約や不動産の名義変更に進みます。管理人の職務は協議の後も続きます。
よくある失敗
- 未成年者の分を親権者が代理して署名してしまう…利益相反があるのに特別代理人を立てずに作った協議書は無効です。金融機関や法務局で必ず指摘されます。
- 子が2人いるのに特別代理人を1人しか立てない…子どうしにも利益相反があります。人数に応じた選任が必要です。
- 子の取り分をゼロにした案を出す…家庭裁判所の審査で通らず、作り直しになります。最初から通る案を作るほうが早く終わります。
- 予納金の負担者を決めずに申し立てる…30万円から50万円という金額を後から相続人間で分担しようとすると、そこで新たな争いになります。
- 管理人を選任すれば協議できると思い込む…権限外行為許可という一段階が必ず入ります。工程表に組み込んでおいてください。
- 期限のある手続きを止めてしまう…協議が長引いても、相続放棄の3か月や相続登記の3年は待ってくれません。期限のある手続きは並行して進めます。詳しくは相続手続きの流れと期限と相続放棄の手続きと3か月の期限をご確認ください。
予納金の額は事案と家庭裁判所によって異なります。本文の30万円から50万円は東京家庭裁判所の案内によるものです。予納郵便切手の額と組合せも家庭裁判所ごとに異なります。申立書の作成・提出は弁護士・司法書士の専門分野のため、当事務所では連携してご案内します。書類の収集や事案の整理は当事務所がお手伝いできますので、まずはご相談ください。
当事務所にご相談いただく場合
当事務所は相続のご相談を400件超お受けしてきました。戸籍の収集による相続人の確定、財産目録の作成、遺産分割協議書の案づくりまで一貫してお手伝いします。特別代理人や不在者財産管理人が必要になりそうな案件では、どの制度を使うことになるか、どれくらいの期間と費用がかかるかを早い段階でお示しします。
なお、家庭裁判所への申立書類の作成代理は、弁護士または司法書士の業務です。当事務所は事前の整理と協議書の作成を担当し、申立てが必要な場面では専門家と連携してご案内します。相続人の間ですでに争いがある場合も、弁護士のご紹介となります。
初回のご相談は無料です。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでご相談いただけます。費用はご依頼の範囲によって変わりますので、正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示します(ご安心ください)。
まとめ
相続人に未成年者がいれば特別代理人、行方不明者がいれば不在者財産管理人。制度そのものは単純ですが、実務でつまずくのはその周辺です。未成年者の場合は遺産分割協議書案の内容が審査されること、子が複数なら人数分の選任が要ること。行方不明者の場合は権限外行為許可という二段目の手続きがあること、予納金が30万円から50万円かかること。この4点を最初に押さえておけば、見通しの立たない不安はなくなります。まずは戸籍の附票で住所をたどるところから始めてください。
相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。



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