民泊の業務停止・廃止命令とは?新宿区・豊島区の処分事例を解説 2026年版

「近隣から苦情が出ていなければ、行政処分までは行かないでしょう」。

民泊のご相談で、いまも根強い誤解です。しかし、都内で実際に出ている処分の理由を並べてみると、まったく違う姿が見えてきます。

民泊の営業を止められた事業者のほとんどは、騒音でもごみでもなく、2か月に一度の報告を出さなかったことが引き金になっています。

結論|処分の入口は「定期報告」です

新宿区と豊島区が公表している一覧を集計すると、処分理由は次のとおりです。

区処分規模処分理由
新宿区廃止命令5事業者15施設(令和7年12月4日に4事業者11施設、令和8年3月16日に1事業者4施設)13施設が定期報告義務違反、2施設が業務停止命令違反
新宿区業務停止命令(30日)3施設(令和8年8月1日正午〜8月31日正午)業務改善命令違反
豊島区業務停止命令(1年)15事業者23施設(令和8年7月1日〜令和9年6月30日)業務改善命令違反(前段は定期報告の未提出)

処分理由の欄に並ぶのは「定期報告義務違反」と「命令違反」だけです。行政が動く入口は、近隣トラブルではなく事務手続きの不履行でした。逆にいえば、報告さえ期日どおり出していれば、この列に名前が載ることはありません。

新宿区が突出しているのは、母数が全国最多だからです

「新宿区は処分が厳しい」と言われます。公表されている資料で見るかぎり、都内で最初に廃止命令まで踏み込んだのも新宿区です。ただ、その背景には規模の問題があります。

観光庁が公表している令和8年7月15日時点の状況で、新宿区の届出住宅数は3,775件。全国の市区町村で最多です。全国の届出住宅数42,070件のうち、およそ1割が新宿区の1区に集中している計算になります。

順位自治体届出住宅数(現存)
1新宿区3,775件
2札幌市3,041件
3墨田区2,314件
4大阪市2,256件
5渋谷区1,845件
6豊島区1,826件

区長も令和7年9月の記者会見で、「新宿区の届出住宅数は3,200件を超え、全国で最も多くなっています」と述べたうえで、法違反を繰り返す事業者には厳正に対処する方針を示しました。

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苦情は5年で13倍に増えています

処分の背景をもう一段掘ると、区が公表している苦情の件数に行き当たります。

年度年度末施設数届出住宅の苦情違法民泊の苦情実査監視件数
令和3年度1,36670件12件536件
令和4年度1,42560件36件1,173件
令和5年度2,166299件144件323件
令和6年度3,070561件231件2,906件
令和7年度3,749924件410件2,040件

届出住宅に関する苦情は、令和3年度の70件から令和7年度の924件へ、5年で13倍を超えました。施設数の伸び(1,366件から3,749件で2.7倍)をはるかに上回るペースです。苦情の主な内容は、ごみ、騒音、たばこ、標識の未設置、事前説明とされています。

もうひとつ注目していただきたいのが実査監視件数です。区は届出住宅の現地確認を行っており、令和6年度は2,906件、令和7年度は2,040件。年度末の施設数とほぼ同じ規模の現地確認を毎年こなしているということです。書類の上だけの監督ではありません。

区が挙げている苦情の具体例も、実務の参考になります。家主同居型として届け出ているのに実際には家主が同居していないというものです。区は、同居型で届け出る場合には家主の部屋と宿泊室を壁等で区画すること(原則として鍵付きの扉)を求め、仲介サイトにも家主同居型である旨を記載するよう指導しています。

報告は2か月ごと、期限は偶数月の15日です

(都道府県知事への定期報告)第十四条

住宅宿泊事業者は、届出住宅に人を宿泊させた日数その他の国土交通省令・厚生労働省令で定める事項について、国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、都道府県知事に報告しなければならない。

住宅宿泊事業法 第14条(都道府県知事への定期報告)

具体的な期日は省令で決まっています。

(住宅宿泊事業者の報告)第十二条

法第十四条の国土交通省令・厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 届出住宅に人を宿泊させた日数

二 宿泊者数

三 延べ宿泊者数

四 国籍別の宿泊者数の内訳

2 住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の十五日までに、それぞれの月の前二月における前項各号に掲げる事項を、都道府県知事に報告しなければならない。

住宅宿泊事業法施行規則 第12条第1項・第2項(住宅宿泊事業者の報告)

読み落としやすいのが「届出住宅ごとに」という部分です。1棟で5部屋を届け出ていれば、報告も5件分。まとめて1件では足りません。新宿区の廃止命令一覧で、同じ事業者の名義で7施設が並んでいるのは、この構造によるものです。

宿泊者がゼロだった期間も報告は必要です。「今回は稼働がなかったから出さなくてよい」という誤解が、そのまま未提出として積み上がります。日数の数え方は民泊の180日の数え方、運営中の義務全般は民泊の運営義務で解説しています。

いきなり止められるわけではありません

処分は段階を踏みます。新宿区長の説明によれば、令和7年の一連の処分は次の順序で進みました。

4月分・6月分の報告を2回連続で怠った事業者のうち、37事業者70施設に弁明の機会の通知を行い、そのうち30事業者52施設に業務改善命令、さらに改善のなかった12事業者22施設に30日間の業務停止命令(令和7年9月12日)。そして12月4日、4事業者に廃止命令が出されました。

(業務改善命令)第十五条

都道府県知事は、住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、その必要の限度において、住宅宿泊事業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

(業務停止命令等)第十六条

都道府県知事は、住宅宿泊事業者がその営む住宅宿泊事業に関し法令又は前条の規定による命令に違反したときは、一年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。

2 都道府県知事は、住宅宿泊事業者がその営む住宅宿泊事業に関し法令又は前条若しくは前項の規定による命令に違反した場合であって、他の方法により監督の目的を達成することができないときは、住宅宿泊事業の廃止を命ずることができる。

住宅宿泊事業法 第15条・第16条第1項第2項(業務改善命令・業務停止命令等)

新宿区の廃止命令の内訳を見ると、12月4日の4事業者のうち3者は業務停止命令のあとも同じ報告義務違反を繰り返し、1者は業務停止の期間中に宿泊客を泊めていたと区が公表しています。停止期間中の営業は、それ自体が住宅宿泊事業法第73条第二号により6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)の対象です。行政処分と刑事罰は別々に動きます。

豊島区は規模で新宿区を上回りました

令和8年に入り、動いたのは豊島区です。令和8年4月に、連続して定期報告を怠った202施設・83事業者へ業務改善命令を出し、それでも改善しなかった23施設・15事業者に対し、令和8年6月11日付で区として初の業務停止命令(令和8年7月1日から令和9年6月30日までの1年間)を発出しました。

停止期間が1年というのは、法第16条第1項の上限いっぱいです。新宿区の30日と比べても重く、実質的に事業の継続は困難になります。豊島区長は、期日までの定期報告ができない事業者は適正な運営ができていない事業者であるとしたうえで、令和8年12月に施行される区域・期間の制限を踏まえて対策を強化する考えを示しています。区域の制限については豊島区で民泊ができなくなる区域にまとめました。

つまり「新宿区だけが厳しい」という理解は、もう実態に合いません。新宿区が先行し、豊島区がより大きな規模で続いた、というのが2026年時点の姿です。各区の上乗せ条例の違いは、日数や区域だけでなく、こうした執行の温度差にも表れます。

廃止命令のいちばん重い効果は3年間の欠格です

(欠格事由)第四条

次の各号のいずれかに該当する者は、住宅宿泊事業を営んではならない。

(中略)

三 第十六条第二項の規定により住宅宿泊事業の廃止を命ぜられ、その命令の日から三年を経過しない者(当該命令をされた者が法人である場合にあっては、当該命令の日前三十日以内に当該法人の役員であった者で当該命令の日から三年を経過しないものを含む。)

住宅宿泊事業法 第4条第三号(欠格事由)

廃止命令を受けると、その日から3年間は民泊の届出ができません。しかも法人の場合は、命令の日前30日以内に役員だった人まで3年間の欠格に含まれます。別の会社を立てて出し直す、という抜け道は、この括弧書きで塞がれています。

この3年は、物件の賃料を払い続けながら待つ3年です。設備投資を回収する前に処分を受ければ、損失はそのまま残ります。無届のまま営業した場合の帰結は無許可民泊の罰則で解説していますが、届出をしている事業者であっても、報告を出さないだけで同じ3年に行き着くことがあるという点は、あまり知られていません。

罰則の一覧

行為罰則根拠
定期報告をしない・虚偽の報告をする30万円以下の罰金法第76条第三号
業務改善命令に違反する30万円以下の罰金法第76条第四号
立入検査を拒む・虚偽の答弁をする30万円以下の罰金法第76条第五号
業務停止命令・廃止命令に違反する6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科あり)法第73条第二号

法人の従業者が違反した場合は、行為者だけでなく法人にも罰金刑が科されます(両罰規定・法第78条)。

処分に至るまでの流れ

  1. ステップ1 定期報告の未提出が記録される
    偶数月の15日が期限です。届出住宅ごとに、宿泊させた日数・宿泊者数・延べ宿泊者数・国籍別の内訳を報告します。稼働ゼロでも提出が必要です。
  2. ステップ2 区から報告徴収・立入検査を受ける
    法第17条第1項に基づき、業務の状況や帳簿書類を調べられます。この段階で応じないこと自体が罰則の対象です。
  3. ステップ3 弁明の機会の付与を受ける
    不利益処分の前に、行政手続法に基づいて言い分を述べる機会が与えられます。新宿区の事例では37事業者70施設がこの通知を受けました。ここが最後の軌道修正の機会です。
  4. ステップ4 業務改善命令を受ける
    法第15条に基づく命令です。命令に従って未提出分の報告を出せば、ここで止まります。従わなければ次に進みます。
  5. ステップ5 業務停止命令を受ける
    法第16条第1項に基づき、1年以内の期間で業務が止まります。区のホームページで氏名・所在地・届出番号まで公表され、宿泊者にも周知されます。
  6. ステップ6 廃止命令を受ける
    停止命令のあとも違反を繰り返すなど、他の方法で監督の目的を達成できないときに出されます(法第16条第2項)。公表は命令の日から3年間続きます。
  7. ステップ7 3年間の欠格が始まる
    法第4条第三号により、命令の日から3年は届出ができません。法人なら命令日前30日以内の役員も同じ扱いです。

よくある失敗

ひとつめは、管理業者に任せきりにすることです。報告の主体はあくまで住宅宿泊事業者本人で、管理を委託していても義務が移るわけではありません。委託契約の中に報告の代行が入っているか、提出の控えが自分に届く運用になっているかを、いちど確認しましょう(住宅宿泊管理業者の登録)。

ふたつめは、事業をやめたつもりで放置することです。稼働を止めても、廃業の届出を出さなければ届出住宅として残り、報告義務も続きます。実際、公表されている処分の中には、既に運営していない物件が含まれている可能性があります。やめるなら、廃業等の届出まで済ませてください。

みっつめは、届出住宅の数だけ報告があることを見落とすことです。物件が増えるほど、抜けが起きます。届出番号の一覧表を作り、偶数月の15日を締切として運用に組み込むのが確実です。

まとめ

都内の民泊で実際に出ている行政処分は、騒音やごみではなく、2か月ごとの定期報告の未提出から始まっています。新宿区は届出住宅数3,775件という全国最多の母数を抱えて先に処分へ踏み切り、令和7年12月に廃止命令を出しました。豊島区は令和8年に202施設への改善命令を経て、23施設に1年間の業務停止を命じています。処分は段階を踏みますので、弁明の機会や改善命令の段階で動けば必ず止められます。逆に放置すれば、行き着く先は3年間の欠格です。これから始める方は民泊の始め方を、区ごとのルールの違いは東京23区の民泊 上乗せ条例まとめをあわせてご覧ください。

民泊・旅館業の許可と届出の全体像は、民泊・旅館業許可の総合ガイドでまとめて解説しています。

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※ 処分の取消しを求める審査請求や訴訟の代理は弁護士の業務です。当事務所は、届出・報告・区への説明資料の作成といった行政手続の部分をお手伝いしています。

出典