民泊から旅館業(簡易宿所)への切り替え|180日を超えて営業する手順 2026年版

「民泊の予約が好調で、秋のうちに年間180日の上限に届いてしまいそうだ」「曜日の制限がある区なので、もっと自由に営業したい」。住宅宿泊事業(民泊)を続けている方から、こうしたご相談が増えています。日数の上限なく営業するには、旅館業法の許可(簡易宿所営業または旅館・ホテル営業)へ切り替える方法があります。ただし、民泊ができている物件なら必ず旅館業の許可が取れる、というわけではありません。この記事では、切り替えの可否を分ける確認点と、手続きの順番を整理します。

結論|まず用途地域を確認。保健所・建築・消防の3つがそろえば切り替えられます

  • 切り替えの意味:旅館業の許可を受ければ、年間180日の上限と、区の条例による民泊の曜日制限がなくなります。
  • 最初の関門:住居専用地域では、旅館業の許可は原則として受けられません。民泊はできても旅館業はできない物件があります。
  • 3つの確認:保健所(旅館業法)、建築基準法、消防法の基準をそれぞれ満たす必要があります。
  • 手続きは別物:民泊の届出を旅館業の許可に「変更」する手続きはありません。旅館業の許可を新しく申請し、民泊は廃止の届出をします。

民泊と旅館業の違い|なぜ切り替えが必要か

民泊(住宅宿泊事業)は、法律の定義そのものに日数の上限が組み込まれています。

(定義)第2条

(中略)

3 この法律において「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。

住宅宿泊事業法 第2条第3項(住宅宿泊事業の定義)

180日を超えて宿泊させると、もはや住宅宿泊事業ではなくなり、旅館業法の許可が必要になります。日数の数え方は民泊の年間180日の数え方で解説しています。

第3条

旅館業を営もうとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。第四項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。ただし、旅館・ホテル営業又は簡易宿所営業の許可を受けた者が、当該施設において下宿営業を営もうとする場合は、この限りでない。

旅館業法 第3条第1項(営業の許可)

民泊が「届出」であるのに対し、旅館業は「許可」です。基準を満たしているかを行政が審査し、施設の検査を経てはじめて営業できます。両者の全体的な違いは旅館業と民泊の違いもあわせてご覧ください。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

切り替えのメリットと注意点

項目民泊(住宅宿泊事業)旅館業(簡易宿所など)
営業日数年間180日まで。区の条例で曜日・期間の制限あり制限なし
手続き届出許可(審査と検査あり)
用途地域住居専用地域でも可(条例の制限あり)住居専用地域・工業地域などは不可
建物の用途住宅のままホテル・旅館(用途変更が必要になる場合あり)
定期の報告2か月ごとに宿泊日数などを報告日数の報告は不要

切り替えで売上の上限は外れますが、工事や設備の費用が先にかかるため、稼働の見込みと回収の期間をあわせて考えることが大切です。

切り替えできるかを分ける3つの確認

宿泊事業の要件は、保健所・建築基準法・消防法の3つの法域にまたがります。どれか1つでも満たせなければ、許可は受けられません。

①保健所(旅館業法・区の条例)

  • 客室の面積:簡易宿所営業は、客室の延床面積が33㎡以上(宿泊者が10人未満の場合は、3.3㎡に人数を掛けた面積以上)が基準です。
  • 玄関帳場(フロント)など:設置を求めるか、映像機器による代替を認めるか、近くに管理者が駆けつけられる体制を求めるかは、区の条例によって異なります。
  • 周辺の施設:学校や児童福祉施設などの周囲おおむね100メートル以内では、施設の環境を害するおそれがないかについて意見の照会が行われます(旅館業法第3条第3項・第4項)。
  • 近隣への周知:申請の前に標識の設置や近隣への説明を求める区があります。期間は条例で決まっているため、スケジュールに組み込みましょう。

簡易宿所の基準の詳細は簡易宿所の許可の取り方で解説しています。

②建築基準法

  • 用途地域:建築基準法上、旅館業の施設は「ホテル・旅館」にあたります。第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、工業地域、工業専用地域では建てられません。第一種住居地域は床面積3,000㎡以下に限られます。
  • 用途変更の確認申請:住宅からホテル・旅館へ用途を変える部分の床面積が200㎡を超える場合は、用途変更の確認申請が必要です。
  • 200㎡以下でも基準は守る:確認申請が不要でも、ホテル・旅館としての防火・避難の基準に適合させる義務はあります。3階以上の階を宿泊に使う場合などは、建物の構造が問われます。

③消防法

  • 消防用設備:自動火災報知設備、誘導灯、消火器などが必要です。家主が不在の民泊は、すでに宿泊施設としての設備を備えていることが多く、追加の工事が少なく済む場合があります。
  • 消防法令適合通知書:旅館業の許可申請に添付するため、消防署へ改めて交付を申請します。民泊のときに取得したものは使えません。
  • 建物全体への影響:共同住宅の一部を旅館業にすると、建物全体の消防設備の基準が変わることがあります。

建築と消防の考え方は民泊・旅館業の消防法と建築基準法で詳しく解説しています。

切り替えの手続きの流れ

  1. ステップ1 物件の調査
    用途地域、建物の構造と面積、検査済証の有無、分譲マンションなら管理規約、賃貸なら貸主の承諾を確認します。
  2. ステップ2 3つの窓口への事前相談
    保健所、建築の担当課、消防署に図面を持って相談し、必要な工事と設備を確定させます。
  3. ステップ3 工事・設備の設置
    必要に応じて用途変更の確認申請、消防設備の工事を行います。条例で定めがある区では、標識の設置や近隣への周知もこの時期に行います。
  4. ステップ4 旅館業の許可申請と検査
    消防法令適合通知書などを添えて保健所へ申請し、施設の検査を受けます。
  5. ステップ5 許可・民泊の廃止の届出
    旅館業の許可が出たら、住宅宿泊事業を廃止し、廃止の日から30日以内に廃業等の届出をします。標識と仲介サイトの掲載情報(届出番号から許可番号へ)も差し替えます。

大切なのは順番です。先に民泊を廃止してしまうと、旅館業の許可が出るまで営業できない空白期間が生まれます。民泊の届出は残したまま旅館業の許可を取り、許可が出てから民泊を廃止するのが基本です。ただし、申請中や工事中の営業の扱いは区によって考え方が異なるため、事前相談の段階で確かめておきましょう。

費用・期間の目安

  • 申請手数料:区によって異なります。世田谷区の場合、簡易宿所営業は16,500円、旅館・ホテル営業は30,600円です。
  • 工事・設備の費用:物件によって大きく変わります。消防設備がすでに整っている物件は少額で済む一方、用途変更や防火の改修が必要な物件は数百万円規模になることもあります。
  • 期間:事前相談から許可まで、2〜4か月程度が目安です。用途変更の確認申請や大きな工事がある場合は、さらにかかります。
  • 行政書士報酬:施設の規模や区、ご依頼の範囲によって変わります(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)。

よくある失敗3つ

①住居専用地域の物件で切り替えを前提に投資してしまう。用途地域は工事では変えられません。無許可で180日を超えて営業すると旅館業法違反となり、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です。切り替えられない物件では、日数の範囲で運営するか、別の物件を検討することになります。

②消防だけ確認して、建築の確認を後回しにする。3階建ての戸建てや古い建物は、建築基準法の基準が関門になることが多くあります。3つの窓口への相談は同時に進めましょう。

③民泊の廃止の届出を忘れる。旅館業の許可を受けても、民泊の届出は自動的には消えません。届出を残したままでは、2か月ごとの定期報告の義務も続きます。

まとめ

民泊から旅館業への切り替えは、用途地域の確認から始まります。そのうえで、保健所・建築基準法・消防法の3つの基準を満たせるかを事前相談で確かめ、旅館業の許可を取ってから民泊を廃止する順番で進めます。年度の日数が残り少なくなってから動くと間に合わないことが多いので、稼働が伸びてきた段階で早めに可否を調べておくと安心です。

民泊・旅館業の許可と届出の全体像は、民泊・旅館業許可の総合ガイドでまとめて解説しています。

行政書士・藤原友事務所(世田谷区大原)では、物件の調査から、保健所・建築の担当課・消防署への事前相談、旅館業の許可申請、民泊の廃止の届出まで、一括してご依頼いただけます。無料相談はお電話(03-4500-1030)で承り、オンラインでのご相談にも対応しています。

出典