子どもがいない夫婦の相続|配偶者と兄弟姉妹の割合と対策 2026年版
「子どもはいませんが、夫婦二人で築いた財産です。私が先に亡くなったら、当然すべて妻のものになりますよね」。
ご相談の場で、たいへんよくうかがう言葉です。そして残念ながら、多くの場合、答えは「なりません」です。
子どものいないご夫婦では、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹がすでに亡くなっていれば、その子である甥姪が相続人になることもあります。残された配偶者が、自宅の名義変更も預金の解約もできないまま立ち往生するという事態は、決してめずらしくありません。
この記事では、誰が相続人になるのかという法律のしくみから、実際に起きる困りごと、そして生前にできる対策までを順にご説明します。

誰が相続人になるのか
民法は、相続人になる人と、その順序を定めています。配偶者は常に相続人になり、それに加えて次の順位で相続人が決まります。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)第889条
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
民法 第889条第1項・第2項(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
順に見ていきます。第887条が定める「子」がいれば、相続人は配偶者と子です。子がいない場合に第889条が働き、まず第1順位として直系尊属(父母、父母がいなければ祖父母)が相続人になります。そして直系尊属も亡くなっている場合に、第2順位として兄弟姉妹が相続人になります。
ご高齢のご夫婦では、ご両親はすでに亡くなっていることがほとんどです。そのため、実際には配偶者と兄弟姉妹という組合せになります。
甥姪までは相続するが、その先はない
第2項の「準用」が、実務では効いてきます。準用されているのは第887条第2項だけです。第2項は、相続人となるべき子が先に亡くなっていた場合にその子(孫)が代わって相続人になる、という代襲の規定です。これが兄弟姉妹の場合にも準用されるので、先に亡くなった兄弟姉妹の子=甥姪が相続人になります。
一方で、再代襲を定める第887条第3項は準用されていません。したがって、甥姪も亡くなっている場合、その子(姪孫)は相続人になりません。子の系統では曽孫、玄孫と下へ続いていくのに対し、兄弟姉妹の系統は甥姪の一代限りで止まる。ここが混同されやすい点です。
割合は4分の3と4分の1
(法定相続分)第900条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
(中略)
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
民法 第900条第三号・第四号(法定相続分)
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全体で4分の1。兄弟姉妹が複数いれば、その4分の1を頭数で分けます。第四号のただし書きにも注意が必要で、父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹(半血)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1になります。先妻との間のお子さんがいる、といったご家庭では、この計算が入ってきます。
ちなみに、ご両親が存命で相続人になる場合は、配偶者3分の2、直系尊属3分の1です(第二号)。同じ「子どもがいない」でも、割合が変わります。
実際に何が起きるか
割合の話は、紙の上では単純です。困るのは手続きの現場です。
- 遺産分割協議に全員の署名と実印が要る…預金の解約も、不動産の名義変更も、相続人全員の合意がなければ進みません。兄弟姉妹や甥姪の一人でも欠けると止まります
- 自宅しか財産がない場合が最も深刻…4分の1に相当する現金を用意できなければ、自宅を売って分けるという話になりかねません
- 連絡先を知らない相手がいる…配偶者から見れば義理の兄弟姉妹、まして甥姪となると、面識すらないことがあります
- 戸籍の収集が膨大になる…兄弟姉妹が相続人であることを示すには、亡くなった方の出生から死亡までに加え、ご両親それぞれの出生から死亡までの戸籍をすべて集める必要があります。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その方の出生から死亡までも要ります
- 関係が疎遠なほど話が長引く…悪意がなくても、書類が返ってこないだけで数か月が過ぎます
戸籍の集め方については相続人調査と戸籍の広域交付、手続き全体の順序については相続手続きの流れをあわせてご覧ください。
決定打は遺言|兄弟姉妹に遺留分はない
ここからが本題です。子どものいないご夫婦にとって、遺言は「あったほうがよいもの」ではなくほぼ必須の備えです。理由は、この条文にあります。
(遺留分の帰属及びその割合)第1042条
1 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
民法 第1042条第1項(遺留分の帰属及びその割合)
冒頭の「兄弟姉妹以外の相続人は」という一言が決定的です。兄弟姉妹と甥姪には遺留分がありません。つまり「全財産を妻に相続させる」と書いた遺言は、そのまま実現します。あとから金銭を請求される余地もありません。
これは、お子さんがいるご家庭との大きな違いです。子には遺留分がありますから、遺言の内容が偏れば遺留分侵害額の請求という話になります。遺留分の考え方は遺留分とはで詳しく扱っています。子どものいないご夫婦は、その心配なく、遺言で結論を決められる立場にあります。
公正証書遺言をおすすめする理由
遺言の方式には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。どちらでも効力は生じますが、子どものいないご夫婦の場合は公正証書遺言をおすすめしています。
- 形式の不備で無効になる心配がありません
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失や書き換えのおそれがありません
- 家庭裁判所の検認が不要で、相続開始後すぐに手続きに使えます
- 不動産の名義変更や預金の解約で、金融機関の対応が円滑です
方式の比較は遺言書の種類と選び方にまとめています。
遺言執行者を必ず指定しておく
遺言を書いただけでは、手続きが自動的に進むわけではありません。遺言執行者を指定しておくと、配偶者が一人で預金の解約や名義変更を進められます。指定がないと、場面によっては家庭裁判所に選任を申し立てることになり、時間がかかります。配偶者ご本人を執行者にすることもできますし、専門家を指定することもできます。
そのほかに検討したいこと
- 配偶者居住権…自宅の所有権と居住する権利を分ける制度です。財産の構成や次の相続の見通しによって、使うべきかどうかは変わります。設定するかは個別にご検討が必要となります
- お互いに遺言を書く…どちらが先に亡くなるかは分かりません。ご夫婦それぞれが遺言を用意しておくのが基本です
- 二次相続まで考える…残された配偶者が亡くなったとき、その方に子も兄弟姉妹もいなければ、相続人がいない状態になります。財産の行き先を遺言で決めておくか、特別縁故者や国庫への帰属という結末になるかの分かれ道です
- おひとりさまの場合…遺言に加えて、死後の手続きを誰が行うかを決めておく必要があります。死後事務委任契約をご覧ください
- 生命保険の活用…受取人を配偶者にしておけば、遺産分割を待たずに現金が手元に入ります。兄弟姉妹に4分の1相当を渡す原資としても使えます
いまから進める手順
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- ステップ1 相続人になる人を確定する
- ご両親、ご兄弟姉妹、亡くなったご兄弟姉妹のお子さん。図に書き出します。ここで初めて「甥姪が5人いる」と分かる例も多くあります。
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- ステップ2 財産の全体像を把握する
- 自宅の評価、預貯金、有価証券、保険。とくに「自宅が財産の大半」という形になっていないかを確認します。
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- ステップ3 誰に何を残すかを決める
- すべてを配偶者に残すのか、お世話になった甥姪にも一部を残すのか。兄弟姉妹に遺留分はありませんので、ご意向のとおりに設計できます。
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- ステップ4 遺言の文案を作る
- 財産の特定の仕方、予備的な定め(配偶者が先に亡くなっていた場合の行き先)、遺言執行者の指定を書き込みます。
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- ステップ5 必要書類をそろえる
- 戸籍謄本、住民票、登記事項証明書、固定資産の評価証明書、通帳の写しなど。公証役場との事前のやり取りで内容を詰めます。
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- ステップ6 公証役場で作成する
- 証人2人の立会いのもと、公正証書遺言を作成します。証人は当事務所で手配できます。
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- ステップ7 保管と見直し
- 正本と謄本の置き場所を配偶者に伝えておきます。財産の構成やご家族の状況が変われば、書き直すことができます。
よくある失敗
- 「うちは仲がいいから大丈夫」…ご本人と兄弟姉妹の仲がよくても、相続人になるのが甥姪に代わると事情が変わります
- 配偶者に全部渡す口約束だけで済ませる…口約束には効力がありません。書面にして初めて意味を持ちます
- 遺言を書いたが遺言執行者を決めていない…手続きの場面で手間が増えます
- 予備的な定めを入れていない…配偶者が先に亡くなった場合の行き先が書かれていないと、その部分について改めて遺産分割が必要になります
- 財産の特定が曖昧…「自宅」ではなく、登記事項証明書のとおりに所在・地番・家屋番号を書きます
- 夫婦の一方しか書いていない…先に亡くなるのがどちらかは分かりません
税金と、専門家の役割分担
税の面でも、押さえておきたい点があります。相続税法第18条は、被相続人の一親等の血族と配偶者以外の人が財産を取得した場合、その人の相続税額に2割を加算すると定めています。兄弟姉妹や甥姪はこれに当たりますので、同じ金額を受け取っても税負担は重くなります。
ただし、具体的な税額の計算や、配偶者の税額軽減を使えるかどうかの判断、申告は税理士の業務です。当事務所では制度の概要をご説明したうえで、必要に応じてこれらを専門としている税理士をご案内します。
あわせて、業務の切り分けをご案内しておきます。不動産の名義変更(相続登記)の申請は司法書士、相続人の間で争いが生じている場合の交渉や家庭裁判所での代理は弁護士の業務です。当事務所がお手伝いするのは、相続人と財産の調査、遺産分割協議書や遺言の文案の作成、公証役場との調整、預貯金の解約に必要な書類の整備といった範囲になります。
まとめ
- 子どものいないご夫婦では、ご両親がいなければ配偶者と兄弟姉妹が相続人になります
- 割合は配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1。半血の兄弟姉妹は全血の2分の1です
- 兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥姪が代襲しますが、その子までは相続人になりません
- 遺産分割には相続人全員の合意が必要で、戸籍の収集も大がかりになります
- 兄弟姉妹・甥姪に遺留分はありません。遺言があれば、そのとおりに実現します
- 公正証書遺言+遺言執行者の指定が、配偶者の負担をいちばん軽くします
- 兄弟姉妹・甥姪が取得する場合、相続税額に2割加算があります
当事務所はこれまでに相続のご相談を400件以上お受けしてきました。「うちは誰が相続人になるのか」を確かめるところからで構いません。相続人の調査、遺言の文案づくり、公証役場との調整までまとめてご相談いただけます。お電話(03-4500-1030)またはお問い合わせフォームからどうぞ。初回のご相談は無料で、オンラインにも対応しています。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。
相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。



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