簡易宿所にフロントは必要?玄関帳場の代替設備と10分駆けつけ体制を解説 2026年版
ゲストハウスや一棟貸しの開業をお考えの方から、必ずと言っていいほどいただくのが「フロントは置かないといけませんか」というご質問です。人件費に直結しますから、当然の関心事だと思います。
結論から申し上げると、簡易宿所営業には、玄関帳場(フロント)に関する構造設備の基準がそもそも法令上ありません。それでも実際の相談現場で無人運営がつまずくのは、法令ではない別のところに理由があります。この記事では、その構造を順に解きほぐします。
まず条文を見る:帳場の基準は旅館・ホテル営業だけにある
旅館業の構造設備の基準は、旅館業法施行令第1条に定められています。
(構造設備の基準)第1条
旅館業法(以下「法」という。)第三条第二項の規定による旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
(中略)
二 宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するものを有すること。
(中略)
2 法第三条第二項の規定による簡易宿所営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
(中略)
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
旅館業法施行令 第1条第1項第二号・第2項第一号・第七号(構造設備の基準)
第1項(旅館・ホテル営業)には玄関帳場の規定がありますが、第2項(簡易宿所営業)には玄関帳場に関する号が一つもありません。東京都の「旅館業のてびき」も、簡易宿所営業の欄に「玄関帳場等に係る構造設備基準はない」と明記しています。
では旅館・ホテル営業のほうで求められる「厚生労働省令で定める基準」とは何か。これが、いわゆるICT代替設備の中身です。
第4条の3
旅館業法施行令(昭和三十二年政令第百五十二号。以下「令」という。)第一条第一項第二号の基準は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること。
二 宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し及び宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること。
旅館業法施行規則 第4条の3(玄関帳場等に代替する設備の基準)
つまり、旅館・ホテル営業であってもこの2つの機能を満たす設備があればフロントを置かずに営業できるという設計になっています。平成30年6月の法改正で導入された考え方です。
ICT設備で代替するときの具体像
条文は抽象的ですが、東京都の「旅館業のてびき」は、玄関帳場を設けずICT機器等を設ける場合の具体例を4つ挙げています。
| 機能 | 具体的な設備・体制の例 |
|---|---|
| 緊急時対応 | 客室や通路に電話機等の通信設備を設置。加えて、宿泊者の求めに応じて従業者・管理会社が徒歩・自転車・バイク・自動車等によりおおむね10分程度で駆けつけられる体制 |
| 本人確認 | 宿泊者の顔と宿泊者名簿の記載を画像で鮮明に確認するためのテレビ電話やタブレット端末 |
| 鍵の受渡し | 宿泊者がスマートフォン等で客室の鍵を開閉するスマートロック等 |
| 出入りの確認 | 本人確認と宿泊者以外の出入りを鮮明な画像で常時確認できるビデオカメラ等を営業者が自ら設置 |
厚生労働省の質疑応答集でも、これらの設備を備えれば施設内に職員等を常駐させないことも可能としたうえで、本人確認と出入りの確認については施設ごとにビデオカメラ等を設置し、常時鮮明な画像により実施する必要があると明確に述べています。「スマートロックを入れたから無人でよい」という話ではなく、カメラによる常時確認までがセットだという点に注意してください。
そして東京都のてびきは、簡易宿所営業についてもこの緊急時対応の基準(上記の1つ目)が参考になるとしています。構造設備の基準はなくても、実務上求められる水準は近いということです。
「おおむね10分」はどう判断されるか
この10分という数字の出どころは、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」です。簡易宿所営業について、玄関帳場等を設けなくてよい場合の要件として、「宿泊客の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制をとることが望ましい」と記載されています。
ここで実務上とても重要なのが、厚生労働省が距離での機械的な判断を否定していることです。同省の通知は、体制が整備されているかどうかは「基本的に、職員等が駆けつけるために通常要する時間によって判断されるべき」であり、職員等が玄関帳場等から駆けつけるとは限らないことから、玄関帳場等からの距離によって機械的に判断するような取扱いは想定していないとしています。
したがって「半径〇〇メートル以内に事務所が必要」という基準ではありません。徒歩・自転車・バイク・自動車のどれで、どのルートで、実際に何分で着くのか。この実測が説明の材料になります。当事務所でご相談をお受けする際も、駆けつけ拠点から施設までの経路と所要時間を最初に確認しています。
あわせて、複数の簡易宿所で一つの玄関帳場を共同で設置して機能させることも差し支えないとされています(緊急時に適切に対応できる体制が整備されていることが前提)。複数物件を面で運営する場合の設計に使える考え方です。
それでも無人運営がつまずく本当の理由:条例の上乗せ
ここまでの話は国の法令です。実際の許可は、これに都道府県・保健所設置市・特別区の条例が重なって決まります。施行令第1条第2項第七号が「その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること」と定めているためです。
過去には、条例で簡易宿所にも玄関帳場等の設置を義務づけている自治体が少なからずあり、厚生労働省は通知のたびに、実態に応じた弾力的な運用や条例の改正等の必要な対応について特段の配慮を各自治体に依頼してきました。逆に言えば、自治体によって扱いが違うのが前提だということです。
東京都の場合、簡易宿所には玄関帳場等の構造設備基準はなく、事故発生時その他の緊急時における迅速な対応を可能とする体制をとることが旅館業法施行条例で維持管理基準として定められています。ただし、東京23区は各区が保健所を設置しており、運用や事前相談の進め方は区ごとに異なります。物件を決める前の保健所への事前相談から、その後の届出まで、当事務所に一括してご依頼いただけます。まずはご相談ください。
無人運営を目指すときの進め方
-
- ステップ1 営業の種別を決める
- 旅館・ホテル営業か簡易宿所営業か、あるいは住宅宿泊事業(民泊)か。帳場の扱いも消防・建築の要件も変わります。
-
- ステップ2 所管の保健所に条例と運用を確認する
- 簡易宿所の帳場に関する上乗せの有無、緊急時対応体制の説明資料として何を求められるかを、物件契約の前に聞きます。
-
- ステップ3 駆けつけ拠点を決めて所要時間を実測する
- 自社の事務所か、委託先か。移動手段ごとの実測時間を記録し、説明できる状態にします。
-
- ステップ4 ICT設備を設計する
- テレビ電話・タブレット等による本人確認、スマートロック、常時録画のビデオカメラ、客室の通信設備。カメラは営業者が自ら設置します。
-
- ステップ5 消防・建築の手続きと並行して進める
- 無人運営の可否は消防設備の要否とも関係します。保健所・消防署・建築部局は同時並行が原則です。
-
- ステップ6 許可申請と現地検査を受ける
- 検査では設備が実際に機能するかを確認されます。図面どおりに設置し、動作を確認しておきます。
民泊(住宅宿泊事業)の場合はどうなるか
住宅宿泊事業は旅館業法ではなく住宅宿泊事業法の世界なので、玄関帳場の議論はそのまま当てはまりません。ただし発想は共通しています。家主不在型では住宅宿泊管理業者への委託が原則として義務となり、本人確認・鍵の受渡し・苦情対応といった機能を管理業者が担うことになります。詳しくは住宅宿泊管理業者の登録と民泊事業者の義務をご覧ください。
簡易宿所営業そのものの要件は簡易宿所の営業許可、旅館・ホテル営業との違いは旅館・ホテル営業と簡易宿所営業の違いで整理しています。

よくある失敗
ネットの情報だけで「フロント不要」と判断して契約してしまう。法令上の基準がないことと、所管の保健所が何も求めないことはイコールではありません。順番は必ず、事前相談が先、契約が後です。
カメラを共用部の管理会社任せにしていた。出入りの確認用のカメラは営業者が自ら設置することが求められます。マンションの既設カメラを流用する前提は通りにくいと考えてください。
駆けつけ体制を契約書で用意していない。委託先に頼む場合、口約束では説明になりません。委託契約書に対応時間と役割を明記しておくと、審査でも運営でも強くなります。
まとめ
簡易宿所営業に玄関帳場の構造設備基準はありません。しかし実務では、緊急時におおむね10分で駆けつけられる体制と、本人確認・鍵の受渡し・出入りの常時確認を担うICT設備が事実上の水準になっています。そして最終的な線引きは条例と所管保健所の運用が決めます。
民泊・旅館業の許可と届出の全体像は、民泊・旅館業許可の総合ガイドでまとめて解説しています。
当事務所は保健所・消防署・建築指導課との調整を含めて、開業までの段取りをまとめてお手伝いしています。初回のご相談は無料、お電話(03-4500-1030)のほかオンラインでも対応しています。物件を決める前のご相談がいちばん効果的です。
条例による上乗せの有無と緊急時対応体制の具体的な求められ方は自治体によってかなり異なります。また駆けつけ時間の考え方についても、所管保健所の運用によって定められています。




任意後見契約とは?法定後見との違い・費用・移行型の使い方を解説 2026年版
建設業の監督処分とは?指示・営業停止・許可取消しの基準を解説 2026年度