一人親方と偽装請負の線引き|請負か雇用かの判断基準を解説 2026年版

「うちは全員一人親方として請負契約にしているから、社会保険も残業代も関係ない」。建設業のご相談で、いまでも時々うかがう言葉です。

ところが、この理解は危うい場合があります。請負契約書を交わしていても、働き方の実態が雇用と変わらなければ、法律上は労働者として扱われるからです。これがいわゆる偽装請負の問題で、建設業の場合は他業種にはない厳しさがあります。

この記事では、一人親方として適正に請け負っている状態と、偽装請負と評価されてしまう状態が、どこで分かれるのかを条文に沿って整理します。そのうえで、自社の契約を点検する手順をご説明します。

まず前提|建設業務への労働者派遣は法律で禁止されている

この論点を理解するうえで、最初に押さえていただきたい大前提があります。

第4条

1 何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。

(中略)

二 建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいう。)

(中略)

3 労働者派遣事業を行う事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その指揮命令の下に当該労働者派遣に係る派遣労働者を第一項各号のいずれかに該当する業務に従事させてはならない。

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第4条第1項第二号・第3項(建設業務への労働者派遣の禁止)

ここが建設業に特有の事情です。事務や製造の現場であれば、請負としては無理があると分かった段階で「では派遣契約に切り替えよう」という解決策があり得ます。ところが建設業務は、そもそも労働者派遣そのものが禁止されている業務です。送り出す側だけでなく、第3項により受け入れる側も禁止されています。

違反すると1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(同法第59条第1号)。つまり建設業では、請負として整えられないのであれば、残る選択肢は雇用しかない、という構造になっています。

「労働者」かどうかは契約書の名称では決まらない

では、請負か雇用かはどう判断されるのでしょうか。出発点は労働基準法の定義です。

(定義)第9条

1 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働基準法 第9条(労働者の定義)

条文はきわめて短く、判断の鍵は「使用される者」という一語に集約されています。契約書の表題が「工事請負契約書」であっても、実際に指揮命令を受けて働いているのであれば労働者と評価されます。逆に、雇用契約という表題でも実態が独立した請負なら請負です。形式ではなく実態で判断されるという点が、この分野のすべての出発点です。

使用従属性を見る主な着眼点

実務では、次のような要素を総合して判断されます。ひとつ当てはまれば直ちに労働者になる、というものではなく、全体を見て評価されます。

  • 仕事の依頼を断る自由があるか…断れないなら労働者に近づきます
  • 作業の進め方について具体的な指示を受けているか…手順まで細かく指示されていれば労働者に近づきます
  • 勤務時間が拘束されているか…始業終業の時刻が決められ、遅刻や早退の管理を受けていれば労働者に近づきます
  • 本人が行かなければならないか…代わりの人を手配できるなら請負に近づきます
  • 報酬が時間で決まっているか…日当や時間単価で決まっていれば労働者に近づきます
  • 機械・器具を自分で用意しているか…自前の道具や車両で来ていれば請負に近づきます
  • 他社の仕事も受けているか…専属で1社の仕事しかしていなければ労働者に近づきます

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

請負として成立しているかを測るもうひとつのものさし

もう一段、具体的な基準があります。厚生労働省が定めている、いわゆる37号告示です。本来は「請負か労働者派遣か」を区分するための基準ですが、請負として独立して事業を行っているといえるかどうかの物差しとして、実務で広く参照されています。

第2条

(中略)

二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。

ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。

ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。

(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。

(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号) 第2条第二号(請け負った業務を独立して処理すること)

注目していただきたいのは、ハの「単に肉体的な労働力を提供するものでないこと」という表現です。自分の機械や資材を使うか、あるいは自分の専門的な技術・経験に基づいて仕事をしているか。どちらかがあって初めて、請負として独立していると評価されます。

現場で「常用」「人工出し」と呼ばれている形、つまり人数と日数だけを決めて日当で精算する取引は、この基準からもっとも遠い形です。工事の完成に対して対価を払うのが請負であり、労働力の提供時間に対して払うのは請負ではない、というのが基本の考え方になります。

偽装請負と評価されると何が起きるか

実態が雇用だと判断された場合、影響は一つではありません。

場面起こりうること
労働基準法労働時間・割増賃金・年次有給休暇などの規定が適用され、未払いがあれば遡って支払う必要が生じます
労働者派遣法建設業務は派遣禁止業務のため、送り出した側・受け入れた側の双方が処罰の対象になり得ます
社会保険・労働保険被保険者として取り扱うべきだったとして、保険料の遡及が問題になります
労災一人親方として特別加入していない場合、事故が起きたときの補償の枠組みが争いになります
建設業許可・経営事項審査社会保険の加入状況は許可の要件であり、経営事項審査の評価項目でもあるため、是正を求められます

とくに負担が大きいのは、割増賃金と社会保険料が過去にさかのぼって問題になる点です。賃金請求権の消滅時効は当面5年とされており(当分の間は3年)、人数が多ければ金額はすぐに膨らみます。

社会保険の加入は建設業許可の要件そのものです。詳しくは建設業許可と社会保険の加入義務で解説しています。

国土交通省も「適正な一人親方」の考え方を示している

この問題は業界全体の課題として扱われており、国土交通省は「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設けて対策を進めています。そこでは、法定福利費などの労働関係諸経費を減らす目的で技能者を個人事業主として扱う動き、いわゆる偽装一人親方が問題として明示されています。

あわせて、適正と考えられる一人親方の姿として、請け負った工事を自らの技能と責任で完結できる個人事業主であること、そのために相応の実務経験と専門的な知識を備えていることが示されています。経験の浅い技能者を入職直後から一人親方として扱うことには、慎重であるべきという整理です。

なお、一人親方であっても請け負う工事の金額によっては建設業許可が必要になります。この線引きは建設業許可がいらない「軽微な工事」とは?をご覧ください。

自社の契約を点検する手順

元請・上位下請の立場で、また一人親方ご本人の立場で、次の順序で確認してみてください。

  1. ステップ1 契約書があるかを確認する
    まず書面の有無です。建設工事の請負契約は、建設業法により書面(または電子)で契約内容を明らかにすることが求められています。口約束のまま日当で精算している状態は、請負であることを説明する材料が何もない、ということになります。
  2. ステップ2 報酬の決め方を確認する
    工事の完成や出来高に対して定めているか、それとも人数と日数で定めているか。ここが請負か否かを分ける最大の分岐点です。日当で精算しているなら、契約書の表題にかかわらず見直しが必要です。
  3. ステップ3 現場での指示のしかたを確認する
    工程や仕様の打合せは請負でも当然に行われますが、作業手順の細部まで指示している、始業終業を管理している、朝礼で服務規律を課している、といった状態は指揮命令と評価されやすくなります。
  4. ステップ4 機械・器具・専門性を確認する
    自前の工具・機械・車両で来ているか、専門的な技術や経験に基づいて任せられる仕事か。簡易な工具しか持たず、材料も機械もすべて元請が用意しているなら、独立した請負とはいいにくくなります。
  5. ステップ5 方向を決めて整える
    請負として整えるのであれば、出来高で報酬を定めた契約書を作り、指示のしかたと道具の負担を実態から見直します。整えられないのであれば、雇用に切り替えるのが本筋です。建設業務は労働者派遣ができないため、中間の選択肢はありません。

契約書の作り方そのものは建設工事の請負契約書の作り方で詳しく扱っています。また、一人親方が法人化して許可を取る場合の考え方は一人親方が法人化して建設業許可を取るには?をご覧ください。

専門家の役割の切り分け

この分野は複数の専門資格が関わります。混同されやすいので整理しておきます。

  • 行政書士…請負契約書などの契約書面の作成、建設業許可の取得と維持に関する手続き
  • 社会保険労務士…労働保険・社会保険の手続き、就業規則の作成、労務管理の相談
  • 労働基準監督署…労働者に当たるかどうかの行政上の判断、是正指導
  • 弁護士…未払賃金の請求など、当事者間で争いになった場合の代理

当事務所でお引き受けできるのは、契約書面を整えることと、建設業許可の側から必要な体制を組み立てることです。労務管理そのものや、すでに争いになっている案件については、社会保険労務士・弁護士をご案内します。

まとめ

要点を整理します。

  • 建設業務への労働者派遣は禁止。請負として整えられないなら雇用しかありません
  • 請負か雇用かは契約書の名称ではなく実態で判断されます
  • 分岐点は報酬の決め方(出来高か日当か)と指揮命令の有無、そして機械・資材・専門性です
  • 「常用」「人工出し」の形は、請負としてもっとも説明が難しい形です
  • 偽装請負と評価されると、賃金・保険料の遡及に加え、建設業許可の要件にも影響します

当事務所は東京都行政書士会世田谷支部に所属し、建設業許可を中心にご相談をお受けしています。一人親方との契約書を整えたい、許可の取得にあたって体制を見直したいといったご相談は、お電話(03-4500-1030)またはお問い合わせフォームからどうぞ。初回のご相談は無料で、オンラインにも対応しています。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。

建設業許可の全体像は、建設業許可のすべて(総合ガイド)でまとめて解説しています。

出典