特別寄与料とは?相続人でない親族の介護と6か月の期限 2026年版
「10年間、義理の父の介護をしてきたのは私です。でも相続では何ももらえないのでしょうか」。相続のご相談で、配偶者の親を看てこられた方から、こうしたお話をうかがうことがあります。
従来の民法では、相続財産を受け取れるのは相続人だけでした。息子の妻は相続人ではありませんので、どれだけ介護をしても法律上は取り分がなく、長く不公平だと指摘されてきた場面です。法務省も、介護を全く行わなかった相続人が財産を取得できる一方で、介護に尽くした長男の妻が分配にあずかれないのは不公平だとして、この制度の趣旨を説明しています。この点を手当てするために設けられたのが特別寄与料の制度です。この記事では、誰が・いつまでに・どうやって請求できるのかを整理します。

結論|相続人でない親族も、相続人へ金銭を請求できます
第十章 特別の寄与
第千五十条
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
民法 第1050条第1項・第2項(特別の寄与)
請求の相手は相続人です。遺産そのものから先に取り分を確保するのではなく、遺産を受け取った相続人に対してお金を請求する、という組み立てになっています。
この制度は平成30年の相続法改正で新設され、原則的な施行日は令和元年7月1日です。改正法の附則は、施行日前に開始した相続については従前の例によると定めていますので、令和元年7月1日より前に亡くなった方の相続では請求できません。相続開始の日付が最初の分かれ目になります。
請求できるのは「相続人でない親族」です
特別寄与者になれるのは、被相続人の親族です。親族の範囲は民法に定めがあります。
(親族の範囲)第725条
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
民法 第725条(親族の範囲)
息子の妻は一親等の姻族ですので、この範囲に入ります。義理の親を看てきた方が想定される中心的な場面です。
一方、次の方は除かれます。
- 相続人(相続人には寄与分という別の制度があります)
- 相続の放棄をした者
- 相続欠格に該当する者、廃除によって相続権を失った者
親族でない方、たとえば内縁の配偶者や、長年支えてきた知人・事実上の養子は対象外です。この方々に財産を残したい場合は、遺言によるほかありません。遺言の種類は自筆証書遺言と公正証書遺言の違いで解説しています。
2つの要件|「無償」と「特別の寄与」
条文を分解すると、要件は次の2つに整理できます。
①無償で療養看護その他の労務を提供したこと
ここでいう「無償」は、対価を受け取っていないことを意味します。実務でもっとも争いになるのがここです。被相続人の年金から生活費を受け取っていた、お礼として毎月いくらか渡されていた、家賃を負担してもらっていた、といった事情があると、無償といえるかどうかが問題になります。介護の記録と、お金のやりとりの記録は、性質を分けて残しておくことが大切です。
また、条文は「療養看護その他の労務の提供」としています。介護だけでなく、被相続人の事業を無報酬で手伝った場合なども含まれます。ただし金銭の援助だけでは労務の提供にあたりません。
②財産の維持または増加について特別の寄与をしたこと
単に世話をしたというだけでは足りず、その労務によって被相続人の財産が減らずに済んだ、または増えたという結びつきが必要です。典型的には、介護サービスを利用していれば支払っていたはずの費用が浮いた、という形で説明します。
「特別の」という言葉も重要です。親族として通常期待される程度の世話では足りず、その程度を超えた貢献であることが求められます。
寄与分との違い
相続人が同じような貢献をした場合には、民法第904条の2の寄与分という別の制度が使われます。似た制度ですが、対象者も手続きも異なります。
| 寄与分(第904条の2) | 特別寄与料(第1050条) | |
|---|---|---|
| 使える人 | 共同相続人 | 相続人でない親族 |
| 何をするか | 遺産分割の中で取り分を増やす | 相続人へ金銭を請求する |
| 方法 | 共同相続人の協議、調わなければ家庭裁判所 | 相続人との協議、調わなければ家庭裁判所 |
| 期限 | 相続開始から10年(第904条の3) | 知った時から6か月/相続開始から1年 |
| 上限 | 遺贈の価額を控除した残額 | 遺贈の価額を控除した残額 |
どちらも、遺贈の価額を差し引いた残額が上限になる点は共通です(第904条の2第3項、第1050条第4項)。遺言で財産の大半が誰かに遺贈されていると、請求できる枠そのものが小さくなります。遺言と最低限の取り分の関係は遺留分と遺留分侵害額請求をご覧ください。
期限がとても短い制度です
家庭裁判所へ処分を請求できるのは、相続の開始および相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内です。どちらか早いほうが来た時点で、家庭裁判所を使う道は閉ざされます。遺産分割の話し合いに10年の期間があるのと比べると、極端に短い期限です。
四十九日や一周忌が済んで、遺産分割の話がようやく動き出した頃には、すでに6か月が過ぎていることも珍しくありません。介護をしてきた自覚がある方は、葬儀が落ち着いた段階で早めに検討を始めましょう。
金額はどう決まるか
法律には算定方法の定めがありません。家庭裁判所は、寄与の時期・方法・程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して額を定めるとされているだけです(第1050条第3項)。
実務では、第三者に介護を頼んだ場合の報酬相当額に、療養看護をした日数を掛け、そこに一定の割合を掛けるという考え方がよく用いられます。親族であることを踏まえて全額ではなく一定割合に抑える、という調整が入るのが通例です。この考え方は実務でよく用いられる目安であり、個別の事情により金額は変わります。
相続人が複数いる場合、各相続人は特別寄与料の額に自分の相続分を掛けた額を負担します(第1050条第5項)。相続人のひとりに全額を請求できるわけではありません。相続人が3人いれば、3人それぞれに請求していくことになります。
請求の進め方
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- ステップ1 相続開始の日と相続人を確認する
- 令和元年7月1日以後に開始した相続であることと、誰が相続人かを確認します。ここから6か月の期限が動き出します。
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- ステップ2 寄与の内容を資料にまとめる
- 介護日誌、通院の付添い記録、要介護認定の資料、ケアプラン、診断書、家計の記録などを集め、いつ・どのような労務を・どれだけ提供したかを時系列で整理します。
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- ステップ3 無償であったことを整理する
- 被相続人からの金銭の受渡しがあった場合は、その性質(生活費の実費精算か、労務の対価か)を説明できるようにしておきます。
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- ステップ4 相続人へ協議を申し入れる
- 金額の根拠を添えて、相続人へ書面で申し入れます。感情的な対立を避けるため、事実と資料を中心に構成することが大切です。
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- ステップ5 合意ができたら書面に残す
- 金額・支払方法・支払期日を明記した合意書を作成します。遺産分割協議と同時に進める場合は、内容が矛盾しないように調整します。
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- ステップ6 調わないときは家庭裁判所へ
- 協議が調わない場合は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所へ処分を請求します(家事事件手続法第216条の2)。期限内であることが前提です。
合意書の作り方は遺産分割協議書の作り方の考え方が参考になります。
相続税はどうなるか
特別寄与料を受け取ると、相続税の対象になります。相続税法第4条第2項は、特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与者がその額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなすと定めています。
息子の妻は被相続人の一親等の血族でも配偶者でもありませんので、相続税法第18条により相続税額が2割加算されます。申告期限は、相続税法第29条第1項により特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内です。反対に、支払った相続人の側では、その額を課税価格から差し引くことになります。相続税の申告と税額の計算は税理士の業務です。
もめないための生前の備え
特別寄与料は、亡くなった後に金額を話し合う制度です。介護をしてきた側にとっては、感謝されるどころか請求する立場に立たされるという、心情的に重い手続きになります。
介護をしてくれる方に確実に報いたいのであれば、生前に手当てしておくほうが確実です。遺言でその方に遺贈する、生前に贈与しておく、あるいは介護に対する報酬を毎月支払う契約にしておく、といった方法があります。死後の手続きを託しておきたい場合は死後事務委任契約という選択肢もあります。
よくある失敗
ひとつめは、記録を何も残していないことです。10年間の介護を、後から思い出しながら証明するのは容易ではありません。日付・内容・所要時間を書いた簡単な記録があるだけで、話し合いの説得力がまったく変わります。
ふたつめは、期限を過ぎてしまうことです。相続人との関係を壊したくない気持ちから切り出せずにいるうちに、6か月が過ぎてしまう例が少なくありません。話し合いを始めた事実を残しておくためにも、早めの申し入れをおすすめします。
みっつめは、遺産分割協議とばらばらに進めてしまうことです。特別寄与料は相続人が負担しますので、遺産の分け方と切り離すと合意しにくくなります。全体の絵を一度に示すほうがまとまりやすいのが実際のところです。
まとめ
特別寄与料は、相続人でない親族が無償で療養看護などを行い、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続人へ金銭を請求できる制度です。令和元年7月1日以後に開始した相続に適用され、家庭裁判所を使えるのは知った時から6か月・相続開始から1年以内という短い期限があります。要件の中心は「無償であったこと」と「財産の維持または増加に結びついていること」で、いずれも日々の記録が決め手になります。受け取った額は相続税の対象となり、2割加算の対象にもなります。
相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。
当事務所では、介護の記録の整理、寄与の内容を説明する書面や合意書の作成、相続人調査や財産の調査までお手伝いしています。相続のご相談は累計400件を超え、ご家族の関係を壊さない進め方を一緒に考えてまいりました。協議が調わず家庭裁判所へ進む場合は提携の弁護士へ、相続税の申告は提携の税理士へおつなぎします。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでの無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。



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