特定建設業の財産的基礎とは?欠損20%・流動比率75%の4基準 2026年度
「そろそろ大きな元請工事を取りたいので、特定建設業の許可に切り替えたい」。建設業のお客さまから、こうしたご相談をいただくことがあります。
特定建設業の許可には4つの許可基準がありますが、経営業務の管理責任者や営業所技術者の要件は、人を配置すれば満たせます。これに対して、最後まで残りやすいのが財産的基礎の要件です。決算書の数字がそのまま合否になるため、申請の直前になって「今期の決算では通らない」と分かってしまうことが少なくありません。
この記事では、財産的基礎として求められる具体的な数字と、その判定に使われる決算、そして決算を締める前だからこそ打てる対策を整理します。

結論|4つの数字をすべて満たす必要があります
特定建設業の財産的基礎として求められるのは、次の4つです。いずれか1つでも欠けると許可は受けられません。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 欠損の額 | 資本金の額の20%を超えていないこと |
| 流動比率 | 75%以上であること |
| 資本金の額 | 2,000万円以上であること |
| 自己資本の額 | 4,000万円以上であること |
この4つは、国土交通省の建設業許可事務ガイドライン(最終改正 令和7年2月1日 国不建第161号)の【第15条関係】に示されているものです。ガイドラインの条文上は3項目の書き方になっており、3つめが「資本金の額が2,000万円以上であり、かつ、自己資本の額が4,000万円以上であること」とまとめられています。資本金2,000万円と自己資本4,000万円は同時に満たさなければならず、片方だけでは足りません。実務では、この2つを分けて数えて「4つの基準」と呼んでいます。
なお、ガイドラインには「次のすべての基準を満たす者は、倒産することが明白である場合を除き、この基準を満たしているものとして取り扱う」と書かれています。数字を満たしていても、明らかに倒産が見込まれる状態であれば別途判断される、という含みがある点は押さえておいてください。
法律はどう定めているか
(許可の基準)第15条
国土交通大臣又は都道府県知事は、特定建設業の許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。
(中略)
三 発注者との間の請負契約で、その請負代金の額が政令で定める金額以上であるものを履行するに足りる財産的基礎を有すること。
建設業法 第15条第三号(特定建設業の許可の基準・財産的基礎)
法律そのものには数字がありません。「政令で定める金額」がいくらかというと、次のとおりです。
(法第十五条第三号の金額)第5条の4
法第十五条第三号の政令で定める金額は、八千万円とする。
建設業法施行令 第5条の4(法第15条第3号の金額)
つまり法律の建前は、「発注者から8,000万円以上の工事を直接請け負っても履行できるだけの財産的な体力があること」です。その体力をどう測るかを具体化したものが、先ほどの4つの数字ということになります。
そもそも特定建設業の許可が必要になる場面
財産的基礎の話に入る前に、そもそもどういう会社に特定建設業の許可が必要なのかを確認しておきます。判断の分かれ目は「発注者から直接請け負った1件の工事について、下請に出す金額の合計がいくらになるか」です。
建設業法施行令第2条により、この金額は5,000万円(許可を受けようとする建設業が建築工事業である場合は8,000万円)と定められています。この金額以上の下請契約を結ぼうとする場合に、特定建設業の許可が必要になります。
よくある誤解が2つあります。ひとつは「大きな工事を請け負うと特定が必要」というもので、正しくは下請に出す金額で決まります。1億円の工事でも全部自社で施工するなら一般建設業のままで構いません。もうひとつは「下請の立場でも特定が必要になる」というもので、この基準は発注者から直接請け負う元請の立場のときだけの話です。一般と特定の違い全般は特定建設業と一般建設業の違いとは?で整理しています。
4つの数字の意味と、どこを見るか
それぞれの用語には、ガイドラインで定義が置かれています。決算書のどこを見ればよいのかを合わせて整理します。
欠損の額(資本金の20%以内)
法人の場合、「欠損の額」とは、貸借対照表の繰越利益剰余金がマイナスであるときに、そのマイナス額が資本剰余金・利益準備金・任意積立金の合計額を上回る部分をいいます。
ここが実務では誤解されやすいところです。繰越利益剰余金がマイナスであっても、それを上回る積立金などがあれば、欠損の額はゼロとして扱われます。赤字イコール不適合ではありません。順序としては、まず繰越利益剰余金のマイナスと、資本剰余金・利益準備金・任意積立金の合計を比べ、上回った差額だけを資本金の額と比較します。
流動比率(75%以上)
「流動比率」は、流動資産を流動負債で割り、百分率で表したものです。計算式そのものは単純ですが、建設業では建設業会計への組替えが結果を左右します。完成工事未収入金・未成工事支出金・未成工事受入金といった科目をどこに区分するかで、流動資産と流動負債の額が動くためです。財務諸表の組替えについては建設業の財務諸表の作り方で解説しています。
資本金の額(2,000万円以上)
「資本金」は、株式会社であれば払込資本金、持分会社等であれば出資金額をいいます。個人事業の場合は期首資本金です。
自己資本の額(4,000万円以上)
「自己資本」は、法人であれば貸借対照表における純資産合計の額です。資本金だけではなく、利益剰余金なども含めた合計であることに注意してください。資本金2,000万円の会社が利益を積み上げて純資産4,000万円に達している、という形が実際にはよくあります。許認可ごとの資本金・財産要件の比較は許認可に必要な資本金・財産要件まとめにまとめています。
判定に使う決算はどれか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。ガイドラインは、判定に使う財務諸表を次のように定めています。
既存の企業については申請時の直前の決算期における財務諸表、新規設立の企業については創業時における財務諸表によって判断されます。つまり決算を締めてしまった後は、その期の数字を動かすことはできません。特定建設業に切り替えたいのであれば、決算を締める前から逆算して準備しておく必要があります。
ただし、ひとつだけ例外があります。ガイドラインには、財務諸表上は資本金の基準を満たさないものの、申請日までに増資を行うことによって基準を満たすこととなった場合は、資本金についてはこの基準を満たしているものとして取り扱うと書かれています。
言い換えると、資本金2,000万円だけは申請日までの増資で間に合いますが、欠損の額・流動比率・自己資本の3つは直前決算の数字がそのまま使われます。この非対称性を知らずに「増資すれば全部解決する」と考えてしまうと、申請の段階で行き詰まります。
要件を欠いたときに何が起きるか
特定建設業者が期の途中で赤字を出し、次の決算で財産的基礎を満たさなくなったとします。このとき、直ちに許可が取り消されるわけではありません。
(許可の取消し)第29条
国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該建設業者の許可を取り消さなければならない。
一 一般建設業の許可を受けた建設業者にあつては第七条第一号又は第二号、特定建設業者にあつては同条第一号又は第十五条第二号に掲げる基準を満たさなくなつた場合
建設業法 第29条第1項第一号(許可の取消し)
この号が挙げているのは、第7条第1号(経営業務の管理責任者)と第15条第2号(特定営業所技術者)です。財産的基礎を定めた第15条第3号は、この取消事由に含まれていません。
では問題がないのかというと、そうではありません。建設業許可は5年ごとの更新制で、更新のときにも許可基準を満たしている必要があります。更新の時点で財産的基礎を満たしていなければ特定建設業の許可を更新できず、期間の経過によって許可は失効します。そうなると5,000万円以上の下請契約ができなくなり、進行中の元請工事の体制を組み替えざるを得なくなります。更新の手続き全般は建設業許可の更新手続きをご覧ください。
特定を維持できない見通しになった場合は、一般建設業の許可を取り直す(般・特新規)という選択になります。申請区分の考え方は許可換え新規・般特新規とは?で解説しています。
一般建設業の500万円とは別の基準です
一般建設業にも財産的基礎の要件がありますが、こちらは自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力という内容で、特定建設業とは別物です。金額の大きさが違うだけでなく、一般建設業には残高証明書で代替する道があるのに対し、特定建設業には残高証明書で代替する仕組みがありません。決算書の数字そのもので判定されます。一般建設業の要件は建設業許可の財産的基礎(500万円)の証明方法とは?で解説しています。
特定建設業へ切り替えるまでの流れ
決算を起点に逆算していくと、手順は次のようになります。
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- ステップ1 直近の決算書で4つの数字を出す
- 欠損の額・流動比率・資本金・自己資本を計算します。ここで足りない項目がはっきりします。まだ余裕のある期であれば、この段階が最も打ち手の多いタイミングです。
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- ステップ2 不足している項目を特定する
- 資本金だけが足りないのか、自己資本や流動比率も足りないのかで、必要な対策がまったく変わります。自己資本と流動比率は決算の締め方の問題ですので、顧問税理士と共有しておきましょう。
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- ステップ3 決算を締める前に手を打つ
- 増資による資本の積み増し、短期借入金の長期への借換えによる流動負債の圧縮、役員貸付金の整理など、期中でなければできない対応があります。判定は直前決算で行われますので、この期を逃すと次の決算まで1年待つことになります。
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- ステップ4 決算を確定し、建設業会計へ組み替える
- 税務署へ提出する決算書とは別に、建設業許可の様式に沿った財務諸表を作成します。組替えの仕方によって流動比率の数値が動きますので、根拠を持って整理します。
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- ステップ5 申請日までに必要な増資を実行する
- 資本金の額だけは、直前決算で足りていなくても申請日までの増資で満たせます。登記が完了していることを示す資料が必要になりますので、登記の期間も見込んでください。
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- ステップ6 般・特新規または更新の申請を行う
- 一般から特定へ切り替える場合は「般・特新規」という区分の申請になります。東京都知事許可の場合、新規扱いのため許可手数料は1区分あたり9万円です。
増資や借入金の借換え、決算の組み方が税務上どのような影響を及ぼすかは税理士の専門分野のため、実行前に提携する税理士と連携してご案内します。
費用と期間の目安
東京都知事許可の場合、般・特新規は新規の申請として扱われ、許可手数料は9万円です。標準処理期間はおおむね1か月から2か月程度をみておくとよいでしょう。大臣許可の場合は登録免許税15万円となります。手数料・標準処理期間・提出書類は許可行政庁ごとに異なり、東京都の手引も毎年度改訂されて示されます。
当事務所にご依頼いただく場合の報酬は、般・特新規の申請で16万5,000円程度からを目安としています。決算前の要件診断のみのご依頼も承っています。(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)
よくある失敗
ひとつめは、決算を締めてから相談に来られることです。申請の直前に「今期の決算では自己資本が3,800万円だった」と分かっても、その期については打つ手がありません。特定建設業を目指すと決めた時点で、期中のうちに数字を確認しておくことが何よりの対策です。
ふたつめは、資本金だけを増資して安心してしまうことです。資本金を2,000万円にしても、純資産の合計が4,000万円に届かなければ自己資本の基準を満たしません。増資は資本金と自己資本の両方を押し上げますので、いくら増やせば両方の基準を満たすのかを先に計算してください。
みっつめは、流動比率を見落とすことです。利益が出ている会社でも、短期借入金が多かったり、未成工事受入金が積み上がっていたりすると、流動比率が75%を割ることがあります。4つのうち、経営の実感といちばんずれやすいのが流動比率です。利益は出ているのに要件を満たさない、という相談の多くはここでつまずいています。決算前に必ず計算しておいてください。
まとめ
特定建設業の財産的基礎は、欠損の額が資本金の20%以内・流動比率75%以上・資本金2,000万円以上・自己資本4,000万円以上という4つの数字で判定されます。判定に使われるのは原則として直前の決算期の財務諸表で、申請日までの増資で救えるのは資本金だけです。したがって、この要件は申請書の書き方の問題ではなく、決算をどう締めるかという経営の問題だとお考えください。要件を欠いても直ちに許可が取り消されるわけではありませんが、更新のときに特定建設業の許可を維持できなくなります。
建設業許可の全体像は、建設業許可のすべて(総合ガイド)でまとめて解説しています。
当事務所では、決算前の要件診断から、般・特新規の申請、財務諸表の組替えのご相談まで対応しています。直近の決算書をお見せいただければ、4つの数字がいまどの位置にあるかをその場で整理してご説明します。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでの無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。




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