配偶者居住権とは?自宅に住み続ける権利の要件と登記・評価を解説 2026年版

「家は息子に継がせたい。でも、私はこの家に住み続けたい」。

ご相談の場でよくうかがうお気持ちです。ところが自宅が遺産の大半を占めていると、配偶者が自宅を相続した時点で法定相続分を使い切ってしまい、預貯金がほとんど手元に残らない、ということが起こります。

この行き詰まりを解くために作られたのが配偶者居住権です。令和2年4月1日に始まった、比較的新しい制度になります。

結論|所有権と居住権を切り分ける制度です

配偶者居住権とは、自宅の所有権をほかの相続人が取得しても、配偶者はその家に無償で住み続けられる権利です。ひとつの建物を「住む権利」と「持つ権利」に分け、住む権利だけを配偶者が取ります。

(配偶者居住権)第千二十八条

被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあつては、この限りでない。

一 遺産の分割によつて配偶者居住権を取得するものとされたとき。

二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

民法 第1028条第1項第一号・第二号(配偶者居住権)

住む権利は所有権より評価額が低くなります。その差額のぶん、配偶者は預貯金など他の財産を多く受け取れる。これが、自宅に住み続けながら生活資金も確保するというこの制度の狙いです。

取得できるのは3つの場合だけです

配偶者居住権は、亡くなったら自動的に発生するものではありません。次のいずれかで初めて取得します。

方法内容注意点
遺産分割相続人全員の協議で配偶者に配偶者居住権を取得させる合意が必要。遺産分割協議書に明記する
遺贈遺言で「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」と書いておく令和2年4月1日より前に作成した遺言では設定できない
家庭裁判所の審判遺産分割の審判で家庭裁判所が定める(民法第1029条)合意があるか、生活維持に特に必要と認められる場合に限る

遺言で残す場合に、実務上いちばん大切な注意点があります。「相続させる」ではなく「遺贈する」と書いてください。令和2年4月1日より前に作成された遺言では、配偶者居住権を設定することはできません。民法第1028条第1項第二号は「遺贈の目的とされたとき」と定めており、条文が遺贈を前提にしているためです。遺言書の書き分けは自筆証書遺言と公正証書遺言の違いもあわせてご覧ください。

さらに、大前提となる要件が2つあります。相続開始の時にその建物に住んでいたこと、そしてその建物を被相続人が配偶者以外の人と共有していなかったことです。二世帯住宅を親子で共有名義にしている場合などは、この但し書きに当たって設定できません。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

登記をしないと守れません

(配偶者居住権の登記等)第千三十一条

居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

民法 第1031条第1項・第2項(配偶者居住権の登記等)

登記をしないまま所有者が建物を第三者に売ってしまうと、買主に対して「私には住む権利がある」と主張できません。取得したら真っ先に登記してください。登記は建物についてのみ行い、土地にはできません。

登録免許税は、建物の固定資産税評価額に1,000分の2を乗じた額です。相続による所有権移転の登記が1,000分の4ですので、その半分ということになります。相続登記そのものの期限は相続登記の義務化で解説しています。

できないことがあります

(配偶者による使用及び収益)第千三十二条

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもつて、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかつた部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

2 配偶者居住権は、譲渡することができない。

3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。

4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によつて配偶者居住権を消滅させることができる。

民法 第1032条第1項〜第4項(配偶者による使用及び収益)

この条文が、制度の使いどころを決めています。配偶者居住権は売れません。人に貸すことも、建て替えることも、所有者の承諾なしにはできません。

つまり「将来は施設に入るかもしれないので、そのときは家を売って費用に充てたい」という設計には向きません。売却を視野に入れるなら、配偶者が所有権そのものを取得したうえで、他の相続人に代償金を払う方法を検討したほうが素直です。

費用の負担も押さえておきましょう。配偶者は通常の必要費を負担します(民法第1034条第1項)。固定資産税や日常的な修繕費は配偶者持ち、大規模修繕などそれ以外の費用は所有者が負担したうえで配偶者に償還を請求できる、という整理です。

存続期間は原則として終身です

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者が亡くなるまで(終身)です(民法第1030条)。遺産分割の協議や遺言、家庭裁判所の審判で「10年間」などと別に定めることもできます。

そして、この制度でとくに知っておいていただきたいのが配偶者が亡くなったときの扱いです。配偶者居住権は終身の権利ですから、配偶者の死亡によって消滅します。消滅した権利は次の相続の対象になりませんので、所有者はその時点で制約のない完全な所有権を持つことになります。

評価はどう決まるのか

(配偶者居住権等の評価)第二十三条の二

配偶者居住権の価額は、第一号に掲げる価額から同号に掲げる価額に第二号に掲げる数及び第三号に掲げる割合を乗じて得た金額を控除した残額とする。

(中略)

二 当該配偶者居住権が設定された時におけるイに掲げる年数をロに掲げる年数で除して得た数(イ又はロに掲げる年数が零以下である場合には、零)

イ 当該配偶者居住権の目的となつている建物の耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数に準ずるものとして政令で定める年数をいう。ロにおいて同じ。)から建築後の経過年数(六月以上の端数は一年とし、六月に満たない端数は切り捨てる。ロにおいて同じ。)及び当該配偶者居住権の存続年数(当該配偶者居住権が存続する年数として政令で定める年数をいう。次号において同じ。)を控除した年数

ロ イの建物の耐用年数から建築後の経過年数を控除した年数

三 当該配偶者居住権が設定された時における当該配偶者居住権の存続年数に応じ、法定利率による複利の計算で現価を算出するための割合として財務省令で定めるもの

相続税法 第23条の2第1項第二号・第三号(配偶者居住権等の評価)

難しく見えますが、考え方はシンプルです。建物の評価額から、配偶者居住権が終わったあとに所有者が受け取る価値を差し引く。その残りが配偶者居住権の価額になります。

計算に使う数字は3つです。

  • 耐用年数=住宅用の法定耐用年数を1.5倍したもの(店舗併用住宅でも建物全部を住宅用として扱います)
  • 存続年数=終身の場合は、厚生労働省の生命表に基づく平均余命(1年未満は切上げ)
  • 複利現価率=存続年数に応じた法定利率による割合

この法定利率について、2026年に確認しておくべき情報があります。法定利率は3年ごとに見直されますが、法務省の告示により、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの第3期も年3%のまま据え置かれることが決まりました(基準割合が年0.4%で、変動幅が1%未満だったためです)。したがって当面、評価に使う複利現価率の前提は変わりません。

検討から設定までの流れ

  1. ステップ1 建物の名義と居住の状況を確かめる
    登記事項証明書で、被相続人の単独名義か、配偶者以外との共有でないかを確認します。共有だと設定できません。
  2. ステップ2 相続人と財産を確定する
    戸籍で相続人を確定し、自宅以外の財産を洗い出します。ここまでは相続手続きの流れと同じ進め方です。
  3. ステップ3 ほかの選択肢と比べる
    配偶者が所有権を取得して代償金を払う方法、自宅を売って分ける方法と並べて、生活設計に合うものを選びます。将来売却の可能性が高いなら配偶者居住権は不向きです。
  4. ステップ4 評価額を試算する
    建物と土地について、配偶者居住権と所有権それぞれの評価額を試算します。相続税の申告が必要な規模なら、この段階で税理士に入ってもらいます。
  5. ステップ5 遺産分割協議書に書く
    配偶者が配偶者居住権を取得すること、存続期間、対象の建物を特定して記載します。存続期間を定めない場合は終身です。
  6. ステップ6 設定の登記をする
    建物について配偶者居住権の設定の登記を申請します。所有者と配偶者の共同申請で、登録免許税は固定資産税評価額の1,000分の2です。
  7. ステップ7 その後の暮らし方を決めておく
    修繕や増改築、施設入所の可能性について、所有者となる子とあらかじめ話し合っておきます。承諾が要る場面を先に共有しておくと、後の紛争を防げます。

配偶者短期居住権との違い

混同されやすいのが配偶者短期居住権です。こちらは、相続開始の時に無償で住んでいれば手続きなしに当然に発生する権利で、遺産分割で建物の帰属が決まった日か、相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで住み続けられます(民法第1037条第1項第一号)。

ただし登記ができませんので、建物が第三者に売られてしまえば対抗できません。あくまで、話し合いがまとまるまでの当面の住まいを守る制度だとお考えください。

よくある失敗

ひとつめは、古い遺言に書いてしまうことです。令和2年4月1日より前に作成された遺言では配偶者居住権を設定できません。以前に遺言を作られた方は、書き直しが必要です。

ふたつめは、登記を後回しにすることです。登記がなければ第三者に対抗できないうえ、所有者に協力してもらう必要があります。関係が良好なうちに済ませてください。

みっつめは、遺留分を考えずに設計することです。配偶者居住権も財産的な価値がありますので、他の相続人の遺留分を侵害することがあります。遺留分の計算を踏まえて、金額の配分を組み立ててください。

なお、判断能力が下がってからでは遺産分割にも登記にも支障が出ます。あわせて任意後見契約のご検討をおすすめしています。預貯金の解約手続きは預貯金の相続手続きをご覧ください。

まとめ

配偶者居住権は、自宅の所有権を子に渡しながら、配偶者の住まいと生活資金の両方を守るための制度です。取得できるのは遺産分割・遺贈・家庭裁判所の審判の3つだけで、遺言に書くなら「遺贈する」という言葉を使い、取得したらすぐに登記します。一方で、売ることも貸すこともできないという強い制約があります。将来この家をどうするのかまで見通したうえで選ぶ、というのがこの権利との正しい付き合い方です。

相続手続き全体の進め方は、相続手続きの総合ガイドでまとめて解説しています。

当事務所では、相続のご相談を累計400件超お受けしてきました。配偶者居住権を使うべきかどうかの整理から、遺産分割協議書や遺言書の作成までお手伝いしています。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでの無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)

※登記申請の代理は司法書士、相続税の計算と申告は税理士、相続人間に争いがある場合の交渉と代理は弁護士の業務です。当事務所では必要に応じて各専門家と連携してご案内しています。

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