任意後見契約とは?法定後見との違い・費用・移行型の使い方を解説 2026年版

「親の判断能力が落ちてきたら、家庭裁判所が知らない人を後見人に選ぶと聞いて不安になった」。当事務所にいただくご相談で、いちばん多い入口がこの不安です。

この不安に対する制度上の答えが任意後見契約です。判断能力がしっかりしているうちに、「誰に」「何を」任せるかを自分で決めて契約しておくという仕組みで、行政書士が契約書の作成でお手伝いできる中核の業務でもあります。

任意後見契約とはどういう契約か

まず、法律の定義を見てみます。

(定義)第2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。

一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
任意後見契約に関する法律 第2条第一号(任意後見契約の定義)

読みどころは2つあります。ひとつは「代理権を付与する委任契約」であること。もうひとつは「任意後見監督人が選任された時から効力を生ずる」という点です。

つまり契約を結んだ瞬間から後見が始まるわけではありません。契約はいわば備えとして眠っている状態で、実際に判断能力が衰えたときに家庭裁判所へ申し立てて、監督人が選ばれてはじめて動き出します。

法定後見との違い

すでに判断能力が低下した後に使うのが法定後見(後見・保佐・補助)、低下する前に備えておくのが任意後見です。違いを整理します。

比較項目 任意後見 法定後見
誰が後見人を決めるか 本人が自分で決める 家庭裁判所が選任する
始められる時期 判断能力があるうち 判断能力が低下した後
権限の範囲 契約で定めた代理権の範囲 法律で定まった範囲(類型による)
取消権 ない ある(日用品の購入等を除く)
必ず監督人がつくか 必ずつく 必要に応じて選任される

ここで最も重要なのが取消権の有無です。法定後見の成年後見人は、本人が結んでしまった不利益な契約を取り消せます。ところが任意後見人にはこの取消権がありません。訪問販売で高額な商品を買ってしまうといった被害への対応力という点では、法定後見のほうが強いのです。

そのため、既に判断能力の低下が進み、消費者被害の懸念が大きいケースでは、法定後見のほうが適していることもあります。制度がどう使い分けられているかは家族が成年後見人になる方法で解説しています。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

契約は必ず公正証書で作る

任意後見契約は、方式が法律で決められています。

(任意後見契約の方式)第3条

任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
任意後見契約に関する法律 第3条(契約の方式)

手書きの契約書や、当事者だけで作った書面では効力が生じません。公証役場で公正証書にすることが必須です。公正証書が作成されると、公証人が法務局へ登記を嘱託し、任意後見契約は後見登記等ファイルに登記されます。この登記があることで、後日「そんな契約は知らない」という争いを防げます。

3つの型(将来型・移行型・即効型)

任意後見契約は、単独で結ぶこともできますが、実務では他の契約と組み合わせて使います。

  • 将来型:任意後見契約だけを結び、判断能力が低下するまでは何もしない型。費用は最も軽い一方、本人の状態の変化に誰も気づかないという弱点があります
  • 移行型財産管理等の委任契約+任意後見契約をセットで結ぶ型。判断能力があるうちは通常の委任契約として通帳の管理などを任せ、能力が低下したら任意後見へ移行します。実務で最も多く使われている型です
  • 即効型:契約締結の直後に監督人の選任を申し立てる型。すでに軽度の低下がある場合に使いますが、契約時の意思能力そのものが後から争われやすいため慎重な判断が要ります

移行型に見守り契約(定期的に連絡・訪問して状態を確認する契約)を足すと、「低下に気づく人がいない」という将来型の弱点も埋まります。さらに、亡くなった後の手続きまで見据えるなら死後事務委任契約を、財産の行き先を決めるなら遺言書を組み合わせるのが基本の設計です。

契約から効力発生までの流れ

  1. ステップ1 誰に何を任せるかを決める
    受任者(将来の任意後見人)を決め、任せる事務の範囲(預貯金の管理、不動産の処分、施設の入所契約、介護保険の申請など)を洗い出します。
  2. ステップ2 契約書の案を作り、公証人と事前に打ち合わせる
    代理権目録の書き方が実務の肝です。ここが漏れていると、必要なときに手続きができません。
  3. ステップ3 公証役場で公正証書を作成する
    本人と受任者が公証役場へ出向きます。外出が難しい場合は公証人に出張してもらうこともできます(別途費用)。
  4. ステップ4 法務局に登記される
    公証人が登記を嘱託します。登記事項証明書は本人や受任者が請求できます。
  5. ステップ5 判断能力が低下したら家庭裁判所へ申し立てる
    本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が、任意後見監督人の選任を申し立てます。
  6. ステップ6 監督人が選任され、任意後見がスタートする
    ここではじめて契約の効力が生じます。以後、任意後見人は監督人へ定期的に報告します。

ステップ5の根拠となる条文も確認しておきます。

(任意後見監督人の選任)第4条

任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

(中略)

3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
任意後見契約に関する法律 第4条第1項・第3項(任意後見監督人の選任)

費用は「作るとき」と「使うとき」の2段階

費用の説明で誤解が生まれやすいのが、公正証書の作成費用だけを見て判断してしまうことです。実際には2段階でかかります。

①契約を作るときの費用(日本公証人連合会の案内による)

  • 公正証書作成の基本手数料:1契約につき1万3,000円(法務省令の計算方法で3枚を超えるときは1枚ごとに300円加算)
  • 法務局へ納める収入印紙代:2,600円
  • 登記嘱託手数料:1,600円
  • 正本・謄本の作成手数料と書留郵便料:実費

移行型のように委任契約もあわせて結ぶ場合は、契約ごとに手数料がかかります。

②実際に使うときの費用

任意後見が始まると、任意後見監督人への報酬が発生します。金額は家庭裁判所が決めます(民法第862条)。裁判所が公表しているめやすでは、監督人の報酬は管理財産額が5,000万円以下なら月額5,000円から2万円程度、5,000万円を超える場合は月額2万5,000円から3万円程度とされています。報酬額のめやすは各家庭裁判所が示しているもので、金額や区分の書き方は裁判所によって差があります。任意後見監督人選任の申立書の作成・提出は弁護士・司法書士の専門分野のため、当事務所では連携してご案内します。書類の収集や事案の整理は当事務所がお手伝いできますので、まずはご相談ください。

ここが見落とされがちな点です。この報酬は本人が亡くなるまで毎年かかり続けます。家族が任意後見人になる場合、任意後見人自身は無報酬とすることもできますが、監督人の報酬は避けられません。契約を作るときの数万円だけでなく、この継続費用まで含めて家族で共有しておくことをおすすめします。

当事務所にご依頼いただく場合の報酬は、契約設計のご相談から公証役場との打ち合わせ、当日の同行まで含めてお見積りします(正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください)。

よくある失敗

代理権目録が足りない。任意後見人ができるのは、契約で与えられた代理権の範囲だけです。自宅の売却を想定していなかったために、施設入所の資金を作れないという事態が起こり得ます。将来の可能性を幅広く洗い出しておくことが重要です。

契約したまま使われない。判断能力が落ちても、周囲が気づかず、監督人選任の申立てをしないまま時間が過ぎるケースです。見守り契約や移行型で、定期的に接点を持つ設計にしておくことで防げます。

受任者を1人しか決めていない。受任者が先に亡くなったり、健康を害したりすることもあります。予備的な受任者を検討しておくと安心です。

なお、監督人の選任申立ての代理や、家庭裁判所に提出する書類の作成は、弁護士・司法書士の業務です。当事務所では契約書(公正証書案)の作成と制度設計のご相談を担当し、申立ての段階は提携する専門家におつなぎしています。

まとめ

任意後見契約は、判断能力があるうちにしか結べないという一点で、備えのタイミングがすべてを決める制度です。将来型・移行型・即効型のどれを選ぶか、誰を受任者にするか、どこまでの代理権を与えるかによって、使えるかどうかが大きく変わります。

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