遺言執行者とは?権限・報酬・依頼先の選び方を解説 2026年版

遺言書の文例集を見ていると、最後のほうに必ず「遺言執行者として次の者を指定する」という条項が出てきます。この一文を入れるかどうかで、遺言を残したあとに家族が背負う手間はまったく違うものになります。結論を先に申し上げると、金融機関の口座解約や不動産の名義変更を伴う遺言であれば、遺言執行者は指定しておくべきです。

この記事では、遺言執行者にどんな権限があるのか、指定しないとどうなるのか、誰に頼めばよいのかを、条文と実務の両面から解説します。行政書士が就任する場合の考え方にも触れます。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割の人

遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を現実の手続きに落とし込む役割を担います。預金の解約と分配、不動産の名義変更に必要な書類の準備、遺贈の履行、認知や相続人の廃除の届出などが、その仕事です。

(遺言執行者の権利義務)第1012条

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

(中略)
民法 第1012条第1項・第2項(遺言執行者の権利義務)

ここで押さえていただきたいのが第2項です。相続人以外の人や団体へ財産を渡す遺贈は、遺言執行者しか実行できません。お世話になった方や母校、支援している団体に財産を残したいという遺言で執行者を決めていないと、その遺言を実現するために、わざわざ家庭裁判所へ選任の申立てをしなければならなくなります

指定しないと何が起きるのか

遺言執行者がいない場合、手続きは相続人が行います。ここで壁になるのが、金融機関や法務局の窓口対応です。

  • 相続人全員の実印と印鑑証明書を求められることが多く、一人でも協力しない人がいると手続きが止まる
  • 相続人の中に行方が分からない人、認知症の方、海外に住んでいる方がいると、そろえること自体が難しい
  • 遺言の内容に不満を持つ相続人が、先に財産を処分してしまうおそれがある

最後の点について、民法は明確な歯止めを置いています。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)第1013条

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

(中略)
民法 第1013条第1項・第2項(遺言の執行の妨害行為の禁止)

つまり遺言執行者を決めておくこと自体が、遺言の内容を守る仕組みとして働くわけです。指定していなければ、この保護は働きません。

「自分のケースだと、どうなる?」と思ったら,読み進める前にお気軽にご相談ください。初回のご相談は無料です。

2019年の民法改正で権限が明確になった

かつては、遺言執行者が単独で預金を解約できるのかという点で金融機関の対応が分かれていました。現在の民法は、この点をはっきりと定めています。

(特定財産に関する遺言の執行)第1014条

(中略)

3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

(中略)
民法 第1014条第3項(特定財産に関する遺言の執行)

「長男に○○銀行○○支店の預金を相続させる」というかたちの遺言(特定財産承継遺言)であれば、遺言執行者が単独で払戻しと解約を申し入れられます。相続人全員の実印を集める必要がありません。この改正が、遺言執行者を置く実益を大きく高めました。

あわせて、遺言執行者が権限内でその立場を示して行った行為の効果は、直接相続人に及ぶことも明文化されています(民法第1015条)。遺言執行者は相続人の代理人ではなく、遺言の内容を実現する独立した立場だと整理されたわけです。

誰が遺言執行者になれるのか

民法が定める資格制限は、驚くほど緩やかです。

民法第1009条が定める欠格事由は「未成年者及び破産者」の2つだけです。禁止されているのは未成年者と破産者だけで、相続人自身が遺言執行者になることも認められています。ただし実務では、次のような観点から人選を考えます。

候補向いている場面注意点
相続人の一人(配偶者や長男など)相続人が少なく、関係が良好で、財産も預金と自宅程度他の相続人から中立性を疑われやすい。手続きの負担も重い
行政書士などの専門家遺贈がある、相続人が多い、疎遠な相続人がいる報酬が発生する。就任を承諾してもらえるか事前確認が必要
信託銀行財産が大きく、管理も含めて任せたい最低報酬が高額に設定されていることが多い

相続人同士の関係が良好かどうかが、専門家に頼むべきかの分かれ目です。仲が良くても、財産の内容が複雑であれば専門家に任せたほうが結果的に早く終わります。

就任した遺言執行者がやるべきこと

指定されていても、当然に就任するわけではありません。承諾するかどうかを決め、承諾したら直ちに任務にかかります。

民法第1007条は、就職を承諾したときは直ちに任務を行うこと、そして任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知することを定めています。この相続人への通知義務は見落とされがちです。相続人が遺言の存在を知らないまま手続きが進むと、後の紛争の火種になるため、法律が通知を義務づけています。さらに、財産目録の作成と交付も義務です(民法第1011条第1項)。

遺言執行の流れ

遺言者が亡くなってから執行が完了するまでの一般的な流れは次のとおりです。

  1. ステップ1 遺言書を確認する
    自筆証書遺言が法務局に保管されていない場合は、家庭裁判所の検認が必要です。公正証書遺言と法務局に保管された自筆証書遺言は検認が不要です。
  2. ステップ2 就任を承諾し、相続人へ通知する
    就任の通知とあわせて、遺言の内容を相続人全員に知らせます。ここで丁寧に説明できるかどうかが、その後の進み方を左右します。
  3. ステップ3 相続人と財産を確定する
    戸籍を集めて相続人を確定し、預貯金・不動産・有価証券・負債を調査します。
  4. ステップ4 財産目録を作成して交付する
    民法が定める義務です。相続人から請求があれば、立会いのもとで作成するか、公証人に作成させます。
  5. ステップ5 遺言の内容を実現する
    預貯金の解約と分配、不動産の名義変更に必要な書類の準備、遺贈の履行を行います。登記申請そのものは司法書士に依頼します。
  6. ステップ6 完了を報告する
    執行の結果を相続人に報告し、任務が終了します。報酬の精算もこの段階で行います。

報酬はどう決めるのか

遺言執行者の報酬は、まず遺言書に書いてあればその金額によります。書かれていない場合は、家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情を考慮して定めることができます(民法第1018条第1項)。

実務では、専門家に依頼する場合、遺言書を作る段階で報酬の定め方まで遺言に書き込んでおくのが一般的です。財産額に応じた割合で定める方法と、定額で定める方法があります。遺言に報酬の定めがないまま専門家に依頼すると、相続人との間で金額の協議が必要になり、揉めるおそれがあります

なお、遺言執行者が誰も指定されていない場合や、指定された人が亡くなっていた場合には、利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てられます(民法第1010条)。申立先は遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、費用は執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円と、裁判所ごとに定められた郵便切手です予納する郵便切手の額は家庭裁判所ごとに異なります。報酬付与の申立書の作成・提出は弁護士・司法書士の専門分野のため、当事務所では連携してご案内します。書類の収集や事案の整理は当事務所がお手伝いできますので、まずはご相談ください。

行政書士に遺言執行者を依頼する場合

行政書士は遺言執行者に就任できます。遺言書の作成をお手伝いした行政書士がそのまま執行者になる形は、遺言者の意図を最もよく理解している人が執行にあたるという点で合理的です。

当事務所でお引き受けする場合の主な業務は次のとおりです。

  • 遺言書作成の段階での執行を見据えた条項の設計(財産の特定、予備的な定め、報酬条項)
  • 相続開始後の就任通知・財産目録の作成と交付
  • 戸籍の収集と相続人の確定、財産の調査
  • 金融機関での解約・払戻し・名義変更の手続き
  • 相続人・受遺者への分配と完了報告

※不動産登記の申請代理は司法書士、相続税の申告は税理士、相続人間で争いが生じた場合の交渉や調停の代理は弁護士の業務です。当事務所では、必要に応じて各専門家と連携して進めます。

遺言書に執行者を書くときの文例

遺言書には、次のように記載します。就任を確実にするため、あらかじめ本人に承諾を得たうえで氏名・生年月日・住所を正確に書くことが重要です。

  • 「遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。住所〇〇、職業 行政書士、氏名〇〇、生年月日〇年〇月〇日」
  • 「遺言執行者は、預貯金の払戻し、解約、名義変更のほか、本遺言の執行に必要な一切の権限を有する」
  • 「遺言執行者は、その任務を第三者に行わせることができる」
  • 「遺言執行者の報酬は、金〇〇円とする」

作成そのものを専門家に依頼する場合の費用感は、遺言書作成を行政書士に依頼するメリット・費用相場にまとめています。3つ目は復任権に関する定めです。民法第1016条により、遺言執行者は自己の責任で第三者に任務を行わせられますが、遺言で別段の定めがあればそれに従うため、明記しておくと安心です。

よくあるご質問

相続人が遺言執行者になると不公平になりませんか

法律上は問題ありませんが、他の相続人から「自分に有利に手続きを進めているのではないか」と疑われる場面は実際にあります。遺留分に関わる内容の遺言では、第三者を執行者にしたほうが穏当に進みます。遺留分については遺留分の記事で解説しています。

遺言執行者を途中で辞められますか

正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任できます。逆に、任務を怠っているときは、利害関係人が解任を請求できます(民法第1019条)。

公正証書遺言なら執行者は不要ですか

公正証書遺言は検認が不要というだけで、執行の手間がなくなるわけではありません。方式にかかわらず、執行者を指定する意味は変わりません。遺言の方式については自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをご覧ください。

まとめ

遺言執行者は、遺言を「書いただけ」で終わらせないための仕組みです。遺贈がある遺言では執行者がいないと実現できず、預貯金の解約も執行者がいれば単独で進められます。相続人全員の協力を前提としない体制を作れることが、最大の利点だとお考えください。

遺言書の作成手続きの全体像は、遺言書の作成ガイドでまとめて解説しています。

「誰を執行者にすべきか」「報酬をどう書けばよいか」といったご相談も、初回は無料で承っています。お電話(03-4500-1030)またはオンラインでお気軽にご連絡ください。正式なお見積りはご依頼いただく前にご提示しますので、ご安心ください。

出典